第1部 解 雇
1 普通解雇
(1) 普通解雇に係る基本的な裁判例
解雇無効
●ユニオン・ショップ協定に基づく解雇権の行使が、合理的な理由を欠き無効になるとされた例/日本食塩製造事件
●寝過ごしてしまったアナウンサーに対する解雇が、権利の濫用とされた例/高知放送事件
(2) 解雇事由の類型別裁判例
① 労働者の労務提供の不能や労働能力又は適格性の欠如に関するもの
ア 勤務成績不良
解雇無効
●解雇事由に相当するほどの著しい成績不良があったとは認められず、解雇が無効とされた例/日本オリーブ(解雇仮処分)事件
●家族の介護のため、正規の半分しか乗務しなかったタクシー運転手に対する解雇が認められなかった例/三和交通事件
●本採用拒否の理由である業務能力の不良、不適格性が認められず、解雇が無効とされた例/オープンタイドジャパン事件
●決算書の作成ミス等が解雇事由の「技能発達の見込みがない」に該当しないとされ、解雇が無効とされた例/森下仁丹事件
●研修や適切な指導を行うことなく、退職を迫りつつ長期間自宅待機をさせた後の解雇が無効と判断された例/エース損害保険事件
●労働能率が劣り、向上の見込みがない、自己中心的などを理由とする解雇が無効とされた例/セガ・エンタープライゼス事件
●感情的になって怒鳴るなど、マネージャーの適格性に欠けるとして行われた解雇が無効とされた例/日本マーク事件
●自動車学校の受付け窓口で、ミスが多く業務に不適格であるとして行われた解雇が無効とされた例/松筒自動車学校事件
●高等専修学校の教員に対して、生徒に対する暴行等を理由としてなされた解雇が無効とされた例/東洋学園事件
●生徒の成績評価の誤りを理由とする高校教諭の解雇が無効とされた例/学校法人松蔭学園(森)事件
解雇有効
●「勤務態度が著しく不良で、改善の見込みがないと認められるとき」を解雇事由とする解雇が有効とされた例/日本ヒューレット・パッカード(解雇)事件
●「技能、能率又は勤務状態が著しく不良で、就業に適さないとき」を解雇事由とする解雇が不法行為を構成しないとされた例/小野リース事件
●入社当初からの職制・会社批判等の問題行動・言辞の繰り返しあるいは職場の人間関係の軋轢状況を招く勤務態度を理由とする即時解雇が有効とされた例/セコム損害保険事件 ●会社による再三の注意・指導にもかかわらず勤務態度を改めなかったこと等を理由に、専門職として中途採用された従業員に対する普通解雇が有効とされた例/日本ストレージ・テクノロジー事件
●営業目標未達成などの理由で出向契約の解約を申し込まれた営業マンに対する職務遂行能力不足を理由とした解雇が有効とされた例/テサテープ事件
●即戦力と期待して中途採用した社員に対する能力不足を理由とする解雇が、有効と判断された例/日水コン事件
●勤務成績不良を理由とする中途採用の従業員に対する解雇が有効とされた例/ヒロセ電機事件
●勤務状況不良を理由とする試用期間中の解雇が有効とされた例/ブレーンベース事件
●欠勤や遅刻の多さ、業務意欲の欠如等を理由とする解雇が有効とされた例/東京海上火災保険事件
●中途採用の従業員の能力が、必要な水準に達していないとして行われた解雇が有効とされた例/プラウドフットジャパン事件
●技術能力が低く、勤務成績・態度も不良で就業規則の「勤務成績不良」に該当し、解雇は有効とされた例/日本エマソン事件
●遅刻・私用外出が多く、上司の命令にも従わない従業員に対する解雇が有効とされた例/高島屋工作所事件
●出向先での勤務態度不良、業務命令違反などを理由に出向を解かれ、行われた解雇が有効とされた例/昭和アルミニウム事件
●勤務成績、勤務状況の不良を理由とする解雇が有効と判断された例/ゴールドマン・サックス・ジャパン・リミテッド事件
●中途入社した従業員について、勤務態度・勤務状況が悪化し、協調性が欠如しているとしてなされた解雇が有効とされた例/古川製作所事件
●業務命令拒否、勤務状態の著しい不良やこれらの行為について反省心が全くなかったとしてなされた解雇が有効とされた例/メディア・テクニカル事件
イ 労働能力喪失
解雇無効
●休職期間満了を理由として行った解雇について、長時間労働が原因でうつ病に罹患したものであり、業務上の疾病により療養している期間になされたものとして無効であると判断された例/東芝(うつ病・解雇)事件
●躁うつ病の治療後復職したが、再発して躁状態が改善されないことを理由にした解雇が無効とされた例/K社事件
●職場復帰訓練で不合格となったスチュワーデスの解雇が無効とされた例/全日本空輸事件
●所長から依頼された公金横領捜索への協力が原因で成績が低下した社員の解雇が無効とされた例/千代田生命保険相互会社事件
解雇有効
●休職中の社員から、条件付きで就業が可能である旨の診断書が提出されたものの、会社が復職を認めず、休職期間満了を理由として行った解雇が有効と判断された例/独立行政法人N事件
●脳出血で半身不随となり、2年あまり後に復職を申し出た教諭の解雇が有効とされた例/北海道龍谷学園事件
●身体障害等級1級に該当する嘱託社員に対する、勤務に堪えられないことを理由とする解雇が有効とされた例/東京電力事件
ウ 労使間の信頼関係の喪失
解雇無効
●教諭が就職部に配転後、業務報告を巡る指示違反での解雇が無効とされた例/菅原学園事件
●経歴詐称を理由とする解雇につき、特段悪意はなく、職務遂行能力に影響はないため無効とされた例/秋草学園事件
●生コン会社の工場長が会社の信用を損うような言動をしたとして解雇されたが、そういう事実がないとして、解雇が無効とされた例/築港生コンクリート事件
解雇有効
●出向を解除して復帰させると過員状態になり、良好な人間関係も壊されて業務に支障を来たす社員の解雇が有効とされた例/尼崎築港事件
●権限を逸脱して税理士と顧問契約するなどした役職者に対する解雇が有効とされた例/桜エンドレス事件
●学園の方針に反するものとして解雇(第1次解雇)に関し、週刊誌に虚偽の情報を提供したとして行われた解雇(第2次解雇)が有効とされた例/学校法人敬愛学園(国学館高校)事件
●職歴及び家族構成を偽ったことが解雇事由に該当し、解雇が有効とされた例/近藤化学事件
② 労働者の規律違反の行為に関するもの
解雇無効
●精神的不調のために欠勤していると認められる労働者に対し、健康診断等を実施せずになされた諭旨退職処分が無効とされた例/日本ヒューレット・パッカード事件
●有期雇用契約の期間途中の解雇の場合には、客観的に合理的な理由及び社会通念上相当である事情に加えて、当該雇用を終了させざるを得ない特段の事情が必要とされた例/学校法人東奥義塾事件
●会社のパソコンから私的な電子メールを送信し、上司に対する誹謗中傷を行ったことによる解雇が無効とされた例/グレイワールドワイド事件
●会社貸与の携帯電話を私用に利用し、相手に迷惑をかけたとして、突然行われた即時解雇が無効とされた例/光安建設事件
●残業拒否及び残業の中止を主張したこと等を理由とする解雇が無効であるとされた例/トーコロ事件
●転勤命令が転勤命令権の濫用で許されないものである以上、転勤命令に違反し無断欠勤したとしてなされた解雇も無効であるとされた例/ミロク情報サービス事件
●根拠を有しない出向命令を拒否したことを理由とする解雇が無効とされた例/藍野学院事件
●セクハラに関するビラの配布は、組合活動の一環としてなされたものだとして、組合委員長の解雇が無効とされた例/中央タクシー(本案)事件
●虚偽の申告で営業部次長に刑事罰を受けさせようとしたなどの理由で行われた運転手の解雇が無効とされた例/吉福グループほか事件
●労組委員長が営業手当の廃止をめぐり、市役所、取引会社等に質問状を配布したことを理由とする解雇が無効とされた例/呉中央水産事件
●病院の意に沿わない言動を理由とする解雇が無効とされた例/安田病院事件
●配転命令に応じなかったこと並びに勤務成績不良を理由とする解雇が無効とされた例/新日本通信事件
●昼間勤務のみから深夜勤務も含む職務への変更拒否を理由とする、女性タクシードライバーの解雇が無効とされた例/草加ダイヤモンド交通事件
●トラック運転手に対する延着事故を理由とする解雇に相当性がなく、解雇権の濫用であるとされた例/ミリオン運輸事件
●抗生物質の過剰投与等がある旨保健所に内部告発したことを理由とする解雇が無効とされた例/医療法人思誠会(富里病院)事件
●深夜、酒気を帯びて、同僚運転のバスを停めて乗車し、乗客から苦情を申し込まれるという事態になった運転手の解雇が無効とされた例/西武バス事件
●飛び込み営業を嫌った職場放棄等を理由とする解雇が無効とされた例/カーマン事件
●業務制度の改定に、容易に応じようとしなかったことを理由とする解雇が無効とされた例/鴻池運送事件
●勤務中に旅客機内で誤ってシャンパンを口にしていたこと等を理由とする解雇が無効とされた例/ノース・ウエスト航空(橋本)事件
●営業上の案件における損害の発生を理由とする解雇が無効とされた例/フレックス事件
●使用者、他の従業員に対する誹謗を理由とした解雇が無効とされた例/電気工事会社(女子従業員地位保全申立)事件
●横領行為、勤務懈怠等を理由とする解雇が、解雇を正当とするに足るとは認められないとして無効とされた例/マツヤサービス事件
●事業所内のトラブルを警察沙汰にしたことなどが「従業員として不適当」という解雇事由にはあたらず、解雇が無効とされた例/武松商事事件
●競業する音楽事務所を設立した楽団員の解雇が労働協約上の解雇協議条項に反し無効とされた例/大阪フィルハーモニー交響楽団事件
解雇有効
●入管法違反で罰金30 万円の有罪判決を受けた教師の解雇が有効とされた例/明治学園事件
●4回にわたるけん責処分にも反省することなく始末書を提出しなかったこと等を理由とする解雇が有効とされた例/カジマリノベイト事件
●学園理事への誹謗・中傷と辞任強要で組合との紛争を生じさせたことを理由とする解雇が認められた例/群英学園事件
●会社と競合する業務を営み、受注を横流ししたことなどを理由とする、営業担当課長に対する解雇が有効とされた例/東京貨物社事件
●タクシー乗務員に対する、メーター不倒行為等を理由になされた解雇が有効とされた例/埼京タクシー事件
●営業目的が一部競合する会社を実質的に経営していたこと等を理由とする解雇が有効とされた例/積水ハウス事件
●会社を誹謗中傷するビラ配布を理由とする解雇が有効とされた例/櫟山交通事件
●上司への反抗、過激な言辞等一つ一つとしては小さな事実が積み重なって解雇が有効とされた例/山本香料事件
●労働者の発言等が企業秩序に重大な影響を与え、信頼関係を維持することができない事由に当たるとして解雇が有効とされた例/株式会社大通事件
●業務に支障をきたし、業務上の命令に従わないことを理由とするパートタイマーの解雇が有効とされた例/NTT テレホンアシスト事件
●自己中心的で上司の注意や業務命令に対して反発を繰り返したとして行われた解雇が有効とされた例/日本火災海上保険事件
●会社名義のクレジットカードのクーポン券を集め、6年間で14 万円相当の商品券等を取得した職員の解雇が有効とされた例/上田株式会社事件
●粗暴な行動をとって、自宅謹慎の業務命令を出された社員が出社して便所に居続けるなどしたため行われた解雇が有効とされた例/豊田通商事件
●不正経理処理を理由とする即時解雇が有効とされた例/第一自動車工業事件
●頸肩腕症候群に罹った労働者が、勤務指示を不満として行ったビラ配布、診療妨害等を理由とする解雇が有効とされた例/日本電信電話(西新井電話局)事件
●NC 旋盤工の行ったコンピューターデータの抜き取り行為、データの消去等を理由とする解雇が有効とされた例/東栄精機事件
●パチンコ店の店長がパチンコ玉の不正な玉出し等の行為をしたことを理由とする解雇が有効とされた例/阪神観光事件
●無届欠勤、遅刻、早退が多いことを理由とする総婦長に対する解雇が、有効とされた例/湯川胃腸病院事件
●ほとんど仕事らしい仕事をせず、勤務態度も改まらなかった労働者の有期契約期間途中での解雇が有効とされた例/情報システム監査事件
●勤務時間や納期を守らず、上司の指示に従わないなどの勤務態度が改まらないことを理由とする解雇が有効とされた例/ユニスコープ事件
2 整理解雇
(1)整理解雇に係る基本的な裁判例
解雇有効
●特定の事業部門の閉鎖に伴う従業員の解雇について、解雇の合理性の判断基準を示した例/東洋酸素事件
(2)その他の整理解雇裁判例
解雇無効
●非採算部門を対象とした整理解雇について、優良部門を解雇回避措置となる希望退職の対象外とすることは認められるが、非採算部門の社員に対する退職勧奨の際の退職条件の前提となる費用捻出策が不十分であり、整理解雇は無効と判断された事例/日本通信事件
●ある金融商品の販売から事実上撤退したことを理由に、当該金融商品を扱う部署にいた者に対して行った整理解雇が、解雇権濫用法理により無効であるとされた例/クレディ・スイス事件
●人員削減のため行われた変更解約告知に応じなかったことを理由とする解雇は、整理解雇と同様の要件が必要となるとされ、当該解雇が無効とされた例/関西金属工業事件
●外資系コンサルタント会社マネージャーに対する解雇が、整理解雇としても能力不足解雇としても無効とされた例/PwC フィナンシャル・アドバイザリーサービス事件
●Yの親会社である米国法人が巨額の損失を生じたこと等によりグループ全体で人員削減が必要であるとしてなした整理解雇が無効とされた例/ゼネラル・セミコンダクター・ジャパン事件
●「やむを得ない事業上の都合」を理由とする解雇が、解雇対象者の選定に合理性がなく、無効とされた例/労働大学(本訴)事件
●赤字部門の廃止については、事業経営上の必要性が認められたが、回避努力に欠けるとして、解雇が無効とされた例/鐘淵化学工業(東北営業所A)事件
●赤字部門の廃止に伴う解雇について、当該赤字部門の廃止の必要性は認められたが、手続が適正さに欠けるとして無効とされた例/国際信販事件
●経営上の必要性を理由とした解雇が、解雇回避の努力、被解雇者に対する手続等いずれも不十分であり、無効とされた例/奥道後温泉観光バス事件
●事業の縮小を理由とした解雇が、人員削減の必要性がなく無効とされた例/古沢学園事件
●人員整理の必要性、解雇回避の努力、解雇対象者の選定の合理性等いずれも不十分であり解雇が無効とされた例/塚本庄太郎商店(本訴)事件
●身体障害者に対する解雇が整理解雇であるとされ、解雇者の選定基準や解雇手続が相当でなく、無効とされた例/乙山鉄工事件
●海外法人日本支社で行った整理解雇が対象人員数、選定手続等に適正さが欠けるとして、無効とされた例/ヴァリグ日本支社事件
●リストラの必要性は認めるものの、回避義務を尽くしたとはいえないとして、解雇が無効とされた例/ワキタ(本訴)事件
●営業所の閉鎖に伴う解雇が、回避義務や組合・従業員への説明・協議を尽くしておらず、無効とされた例/揖斐川工業運輸事件
●現在は、人員削減をする経営上の必要性は小さくなっており、配転等の回避策も可能だとして解雇が無効とされた例/マルマン事件
●生徒減による経営難を理由とする解雇が、解雇回避努力が尽くされていないとして無効とされた例/三田尻女子高校事件
●訴外会社のXに対する2度にわたる解雇の意思表示が、いずれもいわゆる整理解雇の4要件を満たしておらず、無効とされた例/タジマヤ事件
●回避努力、説明義務の履行等の手続がなされておらず、人選も恣意的になされた疑いがあるとして、解雇が無効とされた例/日証(第1・第2解雇)事件
●会社解散に伴う団交の継続中に行われた突然の解雇は、手続全体の適法性に疑問が残るとして無効とされた例/グリン製菓事件
●経営危機下の整理解雇が、整理基準に合理性がなく、労働組合との協議を尽くしたとは言い難いとして無効とされた例/高松重機事件
●部長職にあった者に対する降格、自宅待機等を経た解雇が、就業規則所定の「組合の了承」がないとして無効とされた例/ロイヤル・インシュアランス・パブリック・リミテッド・カンパニー事件
●経営不振を理由とする整理解雇が、回避努力、人選の合理性、労働者への説得等が不十分として無効とされた例/株式会社よしとよ事件
●経営権譲渡後のホテル事業閉鎖に伴う解雇が、手続に相当性がないとして無効とされた例/シンコーエンジニアリング事件
●雇用調整の意味をもつ出向命令の拒否を理由とする解雇は整理解雇であり、必要性がない等として無効とされた例/大阪造船所事件
●園児の減少に伴い、保母を対象になされた解雇が、希望退職の募集などの手続を経ずに行われたとして無効とされた例/あさひ保育園事件
解雇有効
●会社更生法の適用下において行われた運航乗務員(機長または副操縦士)の解雇について、解雇権濫用法理が適用され、整理解雇が有効とされた事例/日本航空(パイロット等)事件
●厳しい経営状況にあったYが、収益性に疑問のあった部署の従業員であったXを整理解雇したことは、社会通念上相当なものとして、解雇権濫用に当たらないと判断した例/CSFB セキュリティーズ・ジャパン・リミテッド事件
●業績不振による子会社移籍を拒否し全員採用に固執した結果、営業譲渡の協議が整わずに行った解雇が有効とされた例/静岡フジカラー他2社事件
●半日パートという職種の廃止に伴う解雇については、整理解雇の法理が適用されるとして有効とされた例/厚木プラスチック関東工場事件
●JRからの業務請負の受注打ち切りによるJR工場内出張所の閉鎖に伴う解雇が有効とされた例/大誠電機工業事件
●経営改善のための配転命令に従わなかったためなした解雇が、就業規則上の「事業の運営上やむを得ないとき」にあたり有効とされた例/八興運輸事件
●経営不振からなされた支店の閉鎖に伴う同支店の従業員に係る解雇が、有効とされた例/シンガポール・デベロップメント銀行(本訴)事件
●経営合理化によるタクシー会社の無線センター従業員の解雇が有効とされた例/北海道交運事業協同組合事件
●ほとんど業務が無くなった事業所の閉鎖に伴う従業員の解雇が、経営上の必要性等から有効とされた例/廣川書店事件
●業績悪化による人件費削減の必要性からなされた解雇が、人員削減の必要性や人選の合理性等が認められ、有効とされた例/明治書院事件
●部門の閉鎖により、他部署のポジションを提案されて、拒否した社員の解雇が有効とされた例/ナショナル・ウエストミンスター(第3次仮処分)事件
●訴外会社からの業務委託契約の打切りによりなされた部門閉鎖に伴う解雇が有効とされた例/角川文化振興財団事件
●配転を模索し、対象人員も専門性の低い者を選ぶなどの努力が尽くされているとして整理解雇が有効とされた例/ナカミチ事件
●経営再建策としての労働条件の変更を伴う再雇用等について、応じない従業員の解雇が有効とされた例/スカンジナビア航空事件
●経営危機に陥り、人員整理等の手段を講じた後に、協調性に欠け能力の劣るXを対象とした整理解雇が、有効とされた例/八千代電子事件
●極度の経営不振に陥り、事務全般を外部委託することになったため行われた整理解雇が有効とされた例/福岡県労働福祉会館事件
●石炭の需要減少等経営環境悪化を理由とする整理解雇が有効とされた例/三井石炭鉱業事件
●別会社に出向してその事業の責任者になるために雇用された労働者について、当該事業からの撤退と別会社の閉鎖を理由とする解雇が有効とされた例/チェース・マンハッタン事件
3 懲戒解雇
(1)懲戒解雇に係る基本的な裁判例
解雇無効
●出勤停止処分後も反省せず、会社の運行管理に従わない態度を明らかにしたとしてなされた懲戒解雇が無効とされた例/平和自動車交通事件
●言動が名誉毀損や誹謗・中傷にあたらず、就業規則上の懲戒事由に該当しないこと等を理由として懲戒解雇が無効とされた例/中央林間病院事件
解雇有効
●労働者が自宅待機命令に反して工場内への入構を強行し警士を負傷させたこと等を理由とする懲戒解雇が有効とされた例/ダイハツ工業事件
(2)解雇事由の類型別裁判例
ア 経歴詐称
解雇無効
●解雇当時認識していなかった年齢詐称を懲戒解雇の理由に追加することは認められず、懲戒解雇が無効とされた例/山口観光事件
●社会福祉施設の指導員に対する経歴詐称及び火災の際の不適切な救助活動を理由とする懲戒解雇が無効とされた例/陽気会事件
●学歴、経歴の詐称等のみをもっては解雇に値するとまではいえず、懲戒解雇が無効とされた例/マルヤタクシー事件
解雇有効
●高校中退を卒業と経歴詐称したことを理由とする懲戒解雇が有効とされた例/正興産業事件
●公務執行妨害、凶器準備集合などについて、公判中であったことを隠して採用された労働者の懲戒解雇が有効とされた例/炭研精工事件
●短大卒を高卒と偽るなど学歴、職歴の詐称を理由とする懲戒解雇が有効とされた例/スーパーバッグ事件
イ 職務懈怠
解雇無効
●大学職員が他大学大学院に在籍していたことが兼業には当たらないなどとされ、いずれの懲戒解雇事由も認められなかった例/大阪経済法律学園事件
●脳梗塞で欠勤した社員が、会社の拒絶を理由に診断書を提出しなかったことを理由とする懲戒解雇が無効、普通解雇として有効とされた例/岡田運送事件
●降格や減給処分を受けた社員が就労意欲を失って退職届を出したところ、行われた懲戒解雇が無効とされた例/神戸化学工業事件
●添乗員に非礼な行為をした等によりなされたバス運転手の諭旨解雇が、既に懲戒処分を受けており、二重処分になること等の理由で無効とされた例/日本周遊観光バス事件
●修学旅行の引率団長としてホテルで待機すべき時間帯にゴルフをした教頭の懲戒解雇が無効とされた例/村上学園事件
解雇有効
●千葉支局長としての転勤命令を不服として、ほとんど業務を行わなかったことを理由とする懲戒解雇が有効とされた例/日本工業新聞社事件
●懲戒歴などに照らすと、長期間の連続欠勤、度重なる職務復帰命令に違反したことを理由とする懲戒解雇が有効とされた例/日経ビーピー事件
●懲戒歴のある社員の長期間の連続欠勤、職務復帰命令違反を理由とする懲戒解雇が有効とされた例/かどや製油事件
●勤務成績が著しく不良としてなされた懲戒解雇が、有効とされた例/日本消費者協会事件
ウ 業務命令違反
解雇無効
●労働者の行った退職の意思表示について、自主退職しなければ懲戒解雇がなされると誤信して行われたものであるとして、錯誤により無効とされた例/富士ゼロックス事件
●女性の容姿をして出勤した性同一性障害者の懲戒解雇が無効とされた例/S社(性同一性障害者解雇)事件
●配転命令に従わないことを理由とする懲戒解雇が、必要な手順を尽くしておらず、無効とされた例/メレスグリオ事件
●職務復帰命令に応ぜず、無断欠勤及び指示命令違反を理由としてなされた懲戒解雇が無効とされた例/アリアス事件
●配転命令拒否には正当な理由がなく、懲戒解雇事由に該当するが、懲戒解雇に至る手続が適正を欠き、解雇が無効とされた例/三和事件
●運転手が事故の報告を怠ったことを理由とする諭旨解雇が、無効とされた例/フットワークエクスプレス(山口店)事件
●ワンマンバス乗務員X1、X2の行った手取り行為に対する懲戒解雇につき、横領の意図の有無により、それぞれ無効又は有効とされた例/西日本鉄道(後藤寺自動車営業所)事件
●制帽不着用のバス運転士に対する懲戒解雇が、無効とされた例/神奈川中央交通事件
解雇有効
●適法な年次有給休暇時季変更権が行使されて、就労義務が生じているのに従わなかった社員の懲戒解雇が有効とされた例/時事通信社事件
●成績不良で固定車をはずされ、固定車以外への乗務を拒否したタクシー運転手への懲戒解雇が有効とされた例/ロイヤルタクシー事件
エ 業務妨害
解雇無効
●支店長らの経営批判行為と組合結成を理由とする懲戒解雇が無効とされた例/日本臓器製薬事件
●①事務所を午前中閉鎖し、裁判所に出頭したことが職場放棄だとして行われた懲戒解雇が無効とされた例
②①の解雇通知を受けながら、入室を要求して大声を出すなどした行為を理由とする懲戒解雇も無効とされた例/同和観光事件
解雇有効
●訴訟行為を始めとする会社の利益を侵害する可能性のある私生活上の行動を行った従業員に対する懲戒解雇は無効とされたが、普通解雇は有効とされた例/モルガン・スタンレー・ジャパン・リミテッド(本訴)事件
●同僚と喧嘩したあげく、同僚のタクシーのエンジンキーを抜き取って持ち去った行為等によりなされた懲戒解雇が有効とされた例/京王自動車事件
●ピケの指導、他の運転手への暴言等を理由とする懲戒解雇が有効とされた例/大和交通事件
オ 職場規律違反
解雇無効
●職場で上司に対する暴行事件を起こした従業員に対し、暴行事件から7年以上経過した後にされた諭旨退職処分が権利の濫用として無効とされた例/ネスレ日本(懲戒解雇)事件
●宴会席上や日常においてセクハラ言動を行っていた管理職に対する懲戒解雇が、権利の濫用とされた例/Y社(セクハラ・懲戒解雇)事件
●通勤経路の変更後も約4年8か月にわたって従前の定期代を不正受給していたことを理由とする懲戒解雇が、「制裁として重きに過ぎる」として無効とされた例/光輪モータース(懲戒解雇)事件
●上司の許可得ず顧客名簿を持ち出したが、第三者へ開示意図はなく目的や保管方法から懲戒解雇を無効とされた例/日産センチュリー証券事件
●2度の酒気帯び運転を加重処分し「免職」としたが、教諭の評価等から厳しすぎることを理由に無効とされた例/熊本県教委事件
●不法に手にした顧客の信用情報を外部に漏らした行為を理由とする懲戒解雇が、無効とされた例/宮崎信用金庫事件
●バス運賃横領を理由とする懲戒解雇が無効とされた例/琉球バス事件
●上司を呼び捨てにしたり、乱暴なことばづかいをしたこと等を理由とする懲戒解雇が無効とされた例/丸彦製菓事件
●会社の経営につき非難中傷をしたこと等を理由とする懲戒解雇が無効とされた例/セキレイ事件
解雇有効
●在職中に競業避止義務及び秘密保持義務に違反して競業会社を設立し取締役に就任し開業準備行為を行った基幹社員の退職金請求が否定された例/ピアス事件
●業務用のパソコンを使用して出会い系サイト等に投稿し、多数回の私用メールの送受信を行った専門学校の教員に対する懲戒解雇処分が有効とされた例/K工業技術専門学校(私用メール)事件
●テレビ局に内部告発を行った従業員に対する懲戒解雇が、解雇権の濫用に当たらないとされた例/アワーズ(アドベンチャーワールド)事件
●機密の漏洩、株主総会での議場混乱、上司に対する反抗等の積み重ねによる懲戒解雇が有効とされた例/コニカ(東京事業場日野)事件
●台風災害復旧工事で適切な処理を行わず、仲介業者に不当な利益を取得させたこと等を理由とする懲戒解雇が有効とされた例/崇徳学園事件
●現金着服行為を理由とする懲戒解雇が有効とされた例/東日本旅客鉄道事件
●告知された事由が職場離脱のみであっても、それまでの多数回にわたる非違行為が懲戒事由に当たり、解雇が有効とされた例/富士見交通事件
●取引先から個人的に金銭を借り入れたり、顧客を紹介して謝礼を受領したことを理由とする懲戒解雇が有効とされた例/わかしお銀行事件
●女性添乗員やトラベルコンパニオンに対するセクハラ行為等を行い、反省の態度もみられないことを理由をする懲戒解雇が有効とされた例/大阪観光バス事件
●経費の不正請求及び不正精算を理由とした懲戒解雇が有効とされた例/メディカルサポート事件
●男性派遣労働者による派遣先女性社員に対するセクシュアルハラスメントを理由とする懲戒解雇が有効とされた例/コンピューター・メンテナンス・サービス事件
●会社の金銭を着服したことを理由とする懲戒解雇が有効とされた例/ダイエー(朝日セキュリティーシステムズ)事件
●約1500 万円の機器の不正購入、及び納入業者から受け取った10 万円の不正使用を理由とする懲戒解雇が有効とされた例/バイエル薬品事件
●上司・同僚に対する度重なる恐喝、脅迫、強要、嫌がらせを理由とする諭旨解雇が有効とされた例/日本電信電話(大阪淡路支店)事件
カ 従業員たる地位・身分による規律違反
解雇無効
●勤務時間中に、会社の車両を使用してアルバイト行為を行っていたことを理由とする懲戒解雇が無効とされた例/十和田運輸事件
●会社への受注を同業他社へ移転させて終了させ、その事情を知りながら報告を怠ったことを理由とする懲戒解雇が無効とされた例/日本航器製作所事件
●在籍中に新会社設立を企て、従業員に何らかの勧誘をしたことを理由とする懲戒解雇が無効とされた例/東京コンピュータサービス事件
●刑事特別法違反の罪で逮捕、起訴されたことを理由とする懲戒解雇が無効とされた例/日本鋼管事件
●夜半他人の居宅に入り込み、住居侵入の罪で罰金に処されたことを理由とする懲戒解雇が無効とされた例/横浜ゴム事件
解雇有効
●競合会社と業務提携する会社へ転職等をした従業員の一部に対する懲戒解雇及び退職金不支給が有効とされた例/キャンシステム事件
●超勤命令拒否など7年間にわたり非違行為を繰り返した結果の分限免職が有効とされた例/大曲郵便局事件
●余剰在庫テレホンカード1万枚を隠匿したことを理由とする懲戒解雇が、有効とされた例/日本電信電話事件
●経理部長が会社の取引に、自分が取締役である会社を介在させ、会社の釈明要求にも応じなかったことを理由とする懲戒解雇が有効とされた例/東京メデカルサービス・大幸商事事件
●従業員を勧誘するなどして、同種の会社を設立しようとしたこと等を理由とする懲戒解雇が有効とされた例/日本教育事業団事件
●勤務時間外のキャバレーでの就労を理由とした懲戒解雇が、有効とされた例/小川建設事件
●公務執行妨害罪で起訴され、有罪判決が確定したことを理由とする懲戒解雇が有効とされた例/国鉄中国支社事件
●使用者の許諾なしに競争会社の取締役に就任したことを理由とする懲戒解雇が有効とされた例/橋元運輸事件
第2部 その他の労働契約終了事由
1 有期労働契約の雇止め
ア 雇止めが認められなかった事案
解雇無効
●基幹臨時工の雇止めについて、解雇に関する法理を類推適用し、無効とされた例/東芝柳町工場事件
●定年前に懲戒処分を受けたこと等を理由とする定年後の再雇用拒否について、解雇権濫用法理の類推適用により無効であると判断された例/東京大学出版会事件
●1年間の契約期間を定めて雇用された臨時雇運転手の雇止めが許されないとされた例/龍神タクシー事件
●特段の事情がない限り更新することを前提とした有期労働契約について、合理化を理由とした雇止めが許されないとされた例/福岡大和倉庫事件
●業績悪化に伴うパートタイマーの雇止めについて、解雇に関する法理を類推適用し、無効とされた例/三洋電機事件(池田ほか事件)
イ 雇止めが認められた事案
●業績悪化を理由とした臨時工の雇止めが認められた例/日立メディコ事件
●11年余にわたって有期雇用契約の締結、契約更新、契約期間満了・退職、一定期間経過後の再入社・新規有期雇用契約の締結を繰り返していた従業員に対し、最後の雇用契約の不更新条項に基づいてなされた雇止めが有効とされた例/本田技研工業(雇止め)事件
●更新を含め最長2年11か月まで雇用を継続することが可能であった有期雇用契約社員に対して、経済不況に伴って行った雇止めが適法とされた事例/いすゞ自動車(雇止め)事件
●作業上のミスを重ね、指導を受けても改善を図らず、ミスを隠蔽した障害者の雇止めに合理性が認められた例/藍澤證券事件
●住民とのトラブルが絶えないマンションの住込み管理員らにつき、マンション退去後の事情等から、会社都合により退職する旨の合意があったとされた例/新日本管財事件
●登録型の労働者派遣において、労働契約の更新を3回繰り返した派遣元との半年間の有期労働契約の雇止めが有効とされた例/マイスタッフ(一橋出版)事件
●不更新条項の定めを理由とした雇止めが認められた例/近畿コカコーラ・ボトリング事件
●21年間に渡り更新された非常勤講師の雇止めが認められた例/亜細亜大学事件
2 企業組織変更に伴う労働契約の終了
解雇無効
●子会社の組合を壊滅させることを目的にして行われた子会社解散による解雇の意思表示が無効とされ、親会社の雇用契約上の責任が認められた例/第一交通産業ほか(佐野第一交通)事件
●企業廃止に基づく従業員の全員解雇が無効とされた例/日進工機事件
●会社再起のために一部門を独立させ、設立した別会社への転籍命令拒否を理由とする懲戒解雇が無効とされた例/三和機材事件
解雇有効
●Yの事業廃止に伴う全従業員の解雇につき、①Yが工場を閉鎖して事業を廃止することを決断したことは、合理的でやむを得ないものであり、②本件解雇手続も妥当であったとして、解雇権の濫用に当たらず、有効と判断された例/三陸ハーネス事件
●売上げが半減するなど経営悪化による会社解散による解雇が有効とされた例/レックス事件
3 合意解約
解雇有効
●懲戒処分が検討されている旨告知されて提出した退職届が、退職の意思表示として有効であるとされた例/ネスレジャパンホールディング事件
●経常利益の減少などを理由とする合意退職が有効とされた例/ダイフク(合意退職)事件
●①配転提案を拒否するならば、退職するしかない旨の会社の勧告・提案に対して外国人従業員が「グッドアイデアだ」と答えたことにつき、退職の合意があったとは認められないとされた例
②無断欠勤するなど労働者が就労意思を喪失した場合は、地位確認を求める法律上の利益をも喪失するとされた例/株式会社朋栄事件
4 再雇用拒否
解雇無効
●事故歴を理由に雇用延長を拒否したが労使協定による除外項目は限定列挙であり非該当であると無効とした例/クリスタル観光バス(雇用延長)事件