「無意識の偏見」をなくす/八木労務開発事務所 代表 八木 早織
孫氏の兵法の1つである「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」。
この言葉が好きな経営者やリーダーの方にぜひ意識を向けていただきたい先がある。それは、「己」の無意識だ。
「己」とはつまり、味方の兵軍。現代では自社組織と置き換えられるだろう。そこにご自身のことも加え、知るべき対象を「己の中の無意識レベル」――具体的には社内に存在する「暗黙の了解」や、ご自身の中の「当然」にまで落とし込んでみていただきたいのだ。
無意識に対して意識的になることで、「組織力の向上」、「部下を育成しやすくなる」、「関係性が良くなり売上げが上がる」など、ポジティブな効果が期待できるからだ。キーワードは近年注目を浴びている「アンコンシャスバイアス」=「無意識の偏見」だ。
たとえば、このようなことはないだろうか。「“普通はこうだろう”ということがある」。「今までのやり方が安全で、違うやり方には反対だ」。「育休復帰後の女性社員に出張は無理」。「上司は部下より優れていないとおかしい」など。
私たちは物事を、無意識に埋め込まれた「解釈」を通じて認識している。そのためアンコンシャスバイアスの存在は至極当然なのだが、時にそれが個人や組織の可能性を阻む壁となってしまうことがある。たとえば先に挙げた育休復帰後の女性社員。実は出張が可能でアサインを心待ちにしているかもしれない。上司は良かれと思い外したが、何も伝えられない本人は自信を喪失し、やりがいを見失っている可能性だってあるのだ。
無意識の影響は絶大で、私たちの意識全体の中で95~97%を占めるといわれている。自覚できる顕在意識はたったの3~5%なのだ。この95%を置き去りにして、「己を知る」のは不可能ではないか。
ただ、無意識の中でも自覚しやすい領域としづらい領域があるため、すべてを網羅する必要はない。生理機能で例えると分かりやすいが、消化機能はコントロールできない一方、呼吸はどうだろう。試しにここで鼻から息を5秒吸って、5秒で吐いてみてほしい。少し肩の力が抜けたような感覚はあっただろうか。こうして「意識して」呼吸してみると、普段の呼吸の浅さに気づいたりする。
このように自覚しやすいところから、「気づき」を重ねていくことが出発点だ。モヤモヤした心中や、進まぬ会議の中に、アンコンシャスバイアスがないか客観認知を繰り返していく。
「見えない敵」との戦国時代。95%の中に潜む可能性が、「百戦殆うからぬ」組織をつくるのではないだろうか。
八木労務開発事務所 代表 八木 早織【千葉】
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