【ひのみやぐら】悲惨な災害経験を語り継ぐ
東日本大震災の発生からもうすぐ10年が経つ。大きな被害を受けた岩手、宮城、福島などの沿岸地域には、次世代に向けた教訓のため、多くの震災遺構が保存されている。また、語り部も若者から高齢者まで二度と悲惨な体験を繰り返さないよう、精力的に活動しているところだ。
労働災害も同じことがいえる。自社で起きた悲しい事故には、耐え難い思いがある。新聞紙上を賑わせたり、社会的に問題となった事案ならなおさらだ。残された者がするべきことは、事故や災害を綿密に調査し、再発防止対策を施すということにほかならない。さらに必要なのは、悲劇を繰り返すまいという強い意思を後輩たちに伝えていくことだ。災害からさまざまな教訓を学びとり、類似災害を発生させないことが、被災者に対して何よりの「反省の証」といえる。
一方で、災害の多かった世代のベテラン社員の大量退職で、事故の重大性や再発防止対策を語り継ぐ機会が失われつつある。昭和40年代、労働災害の死亡者はおよそ年間5000~6000人で推移していたが、令和元年は845人。先人たちのたゆまぬ努力が功を奏したわけだが、皮肉にも災害未体験者が増え、危険に対する感受性の低下が危惧されるようになってしまった。
こうした課題に対応するために、危険を疑似体験する安全体感訓練などが推奨されるようになった。現在ではVR(仮想現実)技術などの導入で教育は進化を続けているが、「記憶」や「思い」を伝える性質というものではない。
今号、特集2ではJR東日本水戸支社、高崎支社が開設した重大事故や災害の教訓を伝える教育施設を紹介している。高崎支社の「刻苦勉励舎(こっくべんれいしゃ)」では、過去に起きた事故を語り継ぐ社員の育成を図り、「安全の本質」を考えさせる教育を実施しているという。事故の遺構も展示しており、当時の悲惨さを痛感することができる。
人間の記憶は儚く、時間とともに確実に遠ざかる。悲しい災害を風化させないためにも、ベテランが職場から過ぎ去る今、システムとして伝承方法を確立させていく必要がある。