賃金減は不利益変更か/京葉中小企業労務協会 会長 石倉 雅恵

2021.03.07 【社労士プラザ】
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京葉中小企業労務協会
会長 石倉 雅恵 氏

 お給料が増えることが、働く人の幸せ。これぞ鉄板の事実。だから賃金減額は不利益変更以外の何物でもない。それが労使共通の常識だ。

 でも、本当にそうかしら。自分の独善的な物の見方を思い知らされたことがあったので、恥ずかしながら、ご紹介したい。

 弊事務所には女性職員が6人おり、私は意図的に賞与を多く払うように努めてきた。男女の、そして正規、非正規の給与格差。子育てと両立しながら小さな社労士事務所で働く彼女たちの稼ぎは、旦那様のお給料には到底及ばないだろう。その格差が、家庭の中での彼女たちの肩身の狭さや、自分は夫よりも劣った存在だという認識につながってしまうのは嫌だ。僅かでもまとまった額の賞与が、小さな励ましになるといいな、なんて、私は勝手に思っていたのだ。でも、これは私の独り善がり。誰もが旦那様と張り合いたいわけじゃない。そんなところに彼女たちの望む幸せはない。なのに、右肩上がりの賞与支給を通じて、雇用主である私が伝えてしまっていたのは「もっと!もっと!もっと!がんばって」というプレッシャーと負担だけだったかもしれない。それを外部のコンサルタントから指摘され、愕然呆然。

 同様のことは他の職場でもあると聞いた。おカネのためだけに人は働いていない。たとえ、お給料が多少減ったとしても、嫌なことを我慢しなくても済む方が良い、自分が大事にしたいことを優先してもらえる方が良い。そう思う人たちが増え、声を出しつつある。仕事の内容、責任の範囲、労働時間を限定することが、彼ら彼女らの希望を叶えると同時に、総人件費を下げる――そういった事例もあるのだと。

 このような状況で行われる給料の減額、人件費の削減は、不利益変更にはならず、むしろ処遇改善といえるのではないか。

 何ともはや、私ったら。職員を知っているつもりの、至らぬ愚行だった。

 賃金の支給根拠を明確にする。職務、職責、役割に応じた賃金設計と、働く人が選択可能な仕組み。おやおや、これはどこかで聞いた話だ。同一労働同一賃金の実現に向けた職務評価の手法と重なる。これぞ、正しい働き方改革、かな。

 働く人一人ひとりとの対話もせずに「人財を大事にする」とか「労働者等の福祉の向上に資する」などとは、ゆめゆめいうまい。本コラムが今後の自分への戒めになるように。そして人を雇う立場のどなたかも同じ間違いをしなくてすみますように。

京葉中小企業労務協会 会長 石倉 雅恵【千葉】

【Webサイトはこちら】
http://www.roumu-kyokai.com/

令和3年3月8日第3296号10面 掲載
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