【主張】高まる送検リスクに対処
本紙報道によると、厚生労働省は、令和2年において悪質・重大とされる送検事案約400件の企業名を公表した(2月22日号1面参照)。1年間の全送検件数が約900件であるから、45%程度の公表率となる。繰り返し違反や被災労働者数などから悪質・重大性を勘案し、公表しているとみられる。政府方針として労働基準監督官の増員も積極化しており、リスク対応には万全を期すべきである。
刑事事件として世間に企業名が公表されてしまうと、世間体というより、取引先や顧客からの信頼が失われかねない可能性がある。これ以上にダメージが大きいのは、社内のモラールダウンである。最低労働基準に違反した挙句に、労働基準監督署の度重なる指導や是正勧告にも従わない経営者の下では持続可能性は乏しく、安心して働けないのは当然である。できれば、「まともな会社」に移りたいと思うだろう。
近年、労働者などからの告訴・告発が増加していることも注意が必要である。刑事訴訟法によると、労働基準監督官などの司法警察員は、告訴・告発を受けたときは速やかに証拠書類・物件を検察官に送付しなければならないことになっている。つまり、ほぼ流れ作業のうちに司法事件として捜査し、送検となる。
安全衛生面では、「重大災害」の定義を踏まえることが重要である。一時に3人以上の労働者が業務上死傷またはり病した災害のことだ。労基署による詳細な原因調査の対象となり、統計上も別扱いとなる。調査の結果、労働安全衛生法に違反していた場合、送検の可能性が高まる。
「ブラック企業」の存在が社会問題化したころから、政府の労働基準行政への力の入れ方が変わってきた。象徴的なのが、労働基準監督官の増員状況である。定員数は、平成9年の約2600人から28年には3200人強となった(本紙連載・西脇巧弁護士「送検・監督のリスク管理」より)。その後も着々と態勢が強化されつつある。
送検となれば多くの場合、略式命令による罰金刑となる。誰しも犯罪企業、犯罪経営者にはなりたくない。