【主張】パンデミックが残すもの
経団連がまとめた提言「非常事態に対してレジリエントな経済社会の構築に向けて」は、企業と社会のつながりに関する将来像を示している(=本紙3月15日第3297号1面)。100年に一度のパンデミックがもたらした新しい流れとして、マルチステークホルダー主義の深化がある。危機に直面して、多くの企業が社員の健康と安全を守り、国民の生活と雇用を守る努力を惜しまなかった。利潤追求や株主優先では、企業自体の存立が危ぶまれる時代に突入した。
今回のパンデミックで、改めてマルチステークホルダー主義の大切さを実感した。近年、とくに大手企業の株主優先主義がめだち始め、様ざまな場面に弊害が生じていた。一時期のブラック企業の横行も一例である。ブラック企業の多くは中小零細企業といえるが、名の通った大手企業も決して少なくなく、どちらかといえば悪質だった。
将来にわたって、利潤追求と株主優先がこのまま加速していけば、社会全体にとって望ましくないのは明らかである。社員の労働条件が下がり続ければ勤労意欲は減退し、生産性は低下し、社会経済はデフレによる縮小再生産の深みに落ちていかざるを得ない。資本主義経済自体の衰退にもつながろう。
社員を通じた社会活動の重要性も浮き彫りとなった。パンデミックはもとより、地震、台風、津波などの大型自然災害に見舞われることが宿命のわが国にとって、いざという時の企業による「共助」は不可欠である。社会活動全般の持続可能性を見据え、企業としていかなる貢献ができるかが問われている。
同提言は、企業が自らの理念に基づき社会において果たすべき役割や株主のみならず顧客や従業員、地域社会などの多様なステークホルダーとの関係性深化が求められていると指摘。新型コロナウイルスの感染拡大という未曽有の危機に直面し、そうした企業の方向性が一段と顕著になったとみている。
「第二の戦後」といわれた東日本大震災に引き続く、世界的パンデミックは、企業が大切にすべき経営理念を置き土産として残していったのかもしれない。