後輩を支援する存在に/大阪府社会保険労務士会 大阪北支部 支部長 中島 康之
サラリーマンを辞めて独立開業した平成5年は、バブルが崩壊した不況期だった。
上司は「中島! 時期が悪い、止めとけ!」といい、友人からは「やっていけるのか?」といわれたが、妻だけは「あなたの好きなようにしたら」と賛成してくれた。「ただし、お金だけはちゃんと入れてね。退職金が尽きるのは1年だからね」という言葉は相当な重圧だった。
私は独学だったこともあり、社会保険労務士の業界のことは全く知らなかった。
開業した年の秋に、社労士会主催の1泊旅行の案内を目にし、悩んだ挙げ句、勇気を振り絞って参加した。
バス4台で安芸の宮島へ向かう親睦旅行である。出発当日、不覚にも時間を読み違え出発時刻ギリギリに到着してしまった。
バスに乗り込むと、先輩会員の皆さんが、着席して一斉にこちらをみている。小声で「遅れてすみません」というのが精一杯だった。空いている席を探すと、一番奥の席が空いていた。その隣にはずいぶんと威厳のある大先輩が座っておられた。
バスが発車し暫くすると、隣の大先輩が「君はどこの支部だね? 開業かな? 非開業かな?」と話しかけて下さった。緊張のあまり上ずった声で「はい、東北支部です。今年の7月に開業登録した新人です。どうぞよろしくお願いします」。心の中では直立不動の姿勢だった。
大先輩は少し微笑んだようにみえた。
車中、大先輩がご自身の昔話も含め、開業の苦労話やどのように顧客開拓していくのかをお話し下さった。翌日の帰りのバスも隣の席で、社会保険労務士業界の話や職業倫理の話をして下さった。ただ先輩の声が小さく、耳をダンボにして必死に聞いた。
旅行の時はどのような方か分からなかったが、帰ってから会員名簿を調べると目が点になった。支部長をされた方だった。その後もお会いする度に声を掛けていただき、開業間もなく知り合いもいない私には本当にありがたかった。
いつかこの時の気持ちを後輩の社会保険労務士に伝えたいと思い、10年前に私塾を開いた。
昨年は創塾10周年の節目を迎え、売上げ目標3千万円を超えた数人の塾生が卒業。新たに入会した塾生と共に再スタートを切っている。少しでも後輩の役に立つことを切に願い、お世話になった先輩への感謝の思いを馳せつつ、日々初心にかえるよう心掛けている。
大阪府社会保険労務士会 大阪北支部 支部長 中島 康之【大阪】
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