【ひのみやぐら】ずい道工事の作業環境改善を
日本のずい道工事は、明治時代以前から今日に至るまで行われている。ずい道は、近代化を支えるインフラとして欠かせない役割を担ってきたが、負の歴史がないわけではない。工事には、さまざまな危険要因があり、切羽での肌落ちや建設機械との挟まれ災害など重篤となる労働災害の懸念が挙げられる。なかでも最も深刻なのは、じん肺だろう。戦後の復興期などは、今とは比べ物にならない数の労働者が掘削作業で多量の粉じんを吸入し、じん肺にり患した。被災した労働者は、国やゼネコンを相手取り、じん肺被害補償を求めた訴訟に発展している。国とは順次和解が成立し、対策の強化を図ることで今日に至る。
改めてじん肺とは、粉じんを多量に吸い込むことで咳、喀痰、喘鳴、息切れ、呼吸困難などを引き起こす疾病をいう。症状は時間をかけて進行し、肺がん、気管支炎などの合併症を伴うことも少なくない。根治する方法はなく、健康管理が非常に難しい病気の一つだ。
粉じんというこの〝厄介〟な疾病については、昭和35年のじん肺法や同54年の粉じん障害防止規則の制定など法の強化や業界関係者を挙げて、低減対策の徹底を図ってきた。その結果、粉じん作業従事者のじん肺健診で新たにじん肺の初見があると診断された数は、昭和55年の1年間では6842人も見つかっていたが、平成30年では91人まで減少した。
さらに、労働者を取り巻く環境を良くしようと、関係者の取組みは続いている。建設業労働災害防止協会では「ずい道等建設労働者健康情報管理システム」を開発。工事に従事したことのある人の健康情報の一元管理を図るとしている。また、特集Ⅰで紹介するように山岳トンネル工事現場の労災防止にビーコンやAIなど最新のシステムを使った現場も見られる。
いまなお、ずい道建設工事は日本経済の発展を支えるべく、各地で行われている。そこで働く人の安全と健康を守ることは、社会的責任にほかならない。こうしたIT技術の進展も加わり、現場の作業環境は過去とは比較にならないほど向上した。
いかなる理由があろうとも、時計の針を戻すことは許されない。