【道しるべ】率先避難 “釜石の奇跡”に学び実践訓練を
死者・安否不明者2万人超の中での「釜石の奇跡」―そう称されている出来事については、すでにご存知の方が多いと思う。東北地方太平洋沖地震後の津波直撃の前に、釜石市内の小中学校の児童・生徒約3000人が教師らの指示を待つことなく次々と高台に向かって避難行動を開始し、間一髪のところで難を逃れ、校舎にいた子供たちから1人の犠牲者も出さなかったという“奇跡”である。
そのときの模様を振り返って検証しながら、「率先避難」にスポットを当てて解説した報道番組(NHK・ニュースウオッチ9)が昨年末、二夜に分けて放送された。そこでまず紹介されたのは、防災教育の日常化を図った教員の工夫と実績だった。算数の授業で津波到達の時間を計算してみるとか、通学路や周辺地域を歩いて防災マップを作るといった実践的学習を通じて防災に必要な知恵と知識を身に付けさせ、自主的主体的に行動できる意識を育み、それが3月11日には最大級の効果を発揮したのである。
次に取り上げられたのは、救命につながった「避難3原則―①想定にとらわれるな、②最善を尽くせ、③率先避難者たれ」の考えで、特に自分がいち早く避難しながら周囲の人の避難を促す率先避難の重要性が強調された。かねてから3原則の実践を提唱し、普及に尽力されている群馬大学大学院の片田敏孝教授によれば、いずれも災害時に陥りやすい心理状態(避難へのためらいや迷いなど)と人間の集団心理などの実態分析から導き出された原則だという。
片田教授の避難行動研究と被災地の子供たちが残した教訓は多方面から注目され、今、多くの地域や企業の防災活動・訓練の場において活かされている。例えば徳島県内での取組みだが、ある工業団地内において率先避難者に任命された男性が大声を発しながら作業員全員を避難に向かわせる訓練は、イザという時への備えとして欠かせないのではと思わせるところがあった。導入、実践を検討されてみてはいかがか。