【道しるべ】過労障害 健康チェックなぜできない!?
『心とからだの健康チェック みんなで進める健康管理』――このスローガンが虚しく聞こえてくるような報告が先月、東京労働局から発表された。「過労死・過労自殺など過重労働による健康障害等を発生させた事業場に対する監督指導結果」である。
臨検監督は、長時間労働などにより脳・心臓疾患や精神疾患(うつ病等)の労災認定事案を発生させた54事業場(このうち過労死26、過労自殺8)を対象として行われたが、結果は労働時間関連の法令違反と健康管理不備の実態を改めて知らしめるものだったといえる。
まず、健康状態の把握と対応だが、約40%の事業場では被災労働者が発症するまでの1年間、健康診断を受診させていなかったことが明らかになっている。また、発症前の健診で有所見と診断されていながら事後措置(医師からの就業に関する意見聴取、勤務軽減、保健指導の実施など)を講じていなかったケースも6事業場あった。どちらも被災労働者が発症に至る前後に健康面のチェックと、なにがしかの措置がとれなかったものだろうと思わせるパターンである。
事業場の業種別内訳は「本社事務所等」が際立って多く(18箇所)、次いで建設業、卸・小売業、製造業の順。規模別では10~49人、50~99人、100~299人規模の中小・零細事業場に集中している。被災労働者54人の従事業務としては経理・事務職が最多の11人で、営業職、システムエンジニア、自動車運転者、施工監理のほか、管理的な立場にあった者が6、7人ずつ挙がっている。
立入検査の対象が多いわけではないため、それぞれの数値だけを見ると”少数現象”と捉えがちだが、個々の健康障害は最悪・劣悪なレベルである。しかも、発覚したのはほんの一部とも推測される。
厚生労働省が先ごろ開始した第12次労働災害防止計画策定に向けた議論では、悪質な企業名を公表してはとの案も出ているそうだが、障害頻発が止まないのなら、いずれはそれも致し方ないかも。