【主張】時間外規制は歴史的前進
連合の神津会長と経団連の榊原会長は、首相官邸の特別応接室に集まり、時間外上限規制を罰則付きで労働基準法上に新設する方向で合意した。大きな焦点となったのは、繁忙期でやむを得ないときの月当たり上限時間数で、最終的に安倍総理の裁断により、「月100時間未満」とすることになった。
現在の過労死認定基準によると、発症前1カ月において時間外労働がおおむね100時間を超えていた場合、業務との関連性が強いとみて、即座に業務上となる可能性が高い。「過労死大国」と評されるようになってしまったわが国としては、「月100時間未満」では、いかにも甘い基準とみることができる。
一般報道でも「ワーク・ライフ・バランスの実現には程遠い」「原点に立ち戻り、抜本的な改革に向けた論議をすべきである」「過労死がなくなるとは到底思えない」とした厳しい意見が噴出している。
しかし、安倍総理が席上発した「労基法70年の中で歴史的な大改革である」という言葉は、労働問題を古くから見つめてきた専門家の率直な意見を代弁しているのではないか。時間外上限の設定は、長年にわたってその必要性が指摘されてきたが、一歩も進まなかった。
アベノミクスの大きな効用といってもいい。政権が厚生労働省とともに働き方改革に本気で取り組み、交渉を続けてきた結果であり、歴史的な前進といってもあながちオーバーではない。時間数はともあれ罰則付き最低労働条件に盛り込むことになったのであり、その努力を評価せざるを得ないだろう。
「月100時間未満」という基準は、時代とともに変化するものと考えたい。施行後5年で見直すことが合意されたのもそうした含みが込められている。まずは上限規制新設を優先し、時間数については世論の動向や実態を考慮しながら削減していく方向と理解したい。安倍総理も「今回の合意は、最初の一歩に過ぎない」と話している。
極端な規制強化によるわが国経済・産業全体へのダメージにも配慮する必要があるはずだ。