【道しるべ】熱中症への備え 注意したい発症現場の多様性
熱中症による死亡災害は屋外・建設作業時だけに限らない。警戒すべき多様な例を、安全衛生教育インストラクターの末松清志さんが本誌姉妹誌・安全衛生ノートで紹介している。
「金属製品の焼き入れ工程で作業をしていた45歳の男性が倒れ、病院に搬送した3時間後に死亡」――作業位置の室温が40度を超え、スポットクーラーが設けられていたものの有効に機能せず、休憩所にも冷房設備がなかったための発症だった。
「改造した塗装・乾燥工程の作業場で50代の男性が体温上昇と脱水症状で倒れ、休業1週間」――新しい作業箇所(温度35度・湿度75%)は通風や温度調整の措置が行われておらず、作業者も“水は汗をかくだけ”と水分補給をしていなかった。
「社員食堂の厨房(食器洗浄室・室温36度)で委託業者の8人が次々と倒れ入院・休業者が出た」――検証によると冷房機を誤って送風のみにしていたことと、徐々に室温が高くなってきたため全員が熱中症に無警戒で処置が遅れたのが主な原因のようだ。
「工場の作業床改修工事において男性作業者がモルタル(約20kg)をバケツ2つに入れて3階まで運んでいた後に休憩所で気を失って倒れ、2日後に熱中症による急性肝不全で死亡した」――被災者は入社2日目で、気温は29度とそれほど高くはなかったが身体作業強度の高い運搬作業に慣れておらず、熱中症の危険性に関する注意や教育も受けていなかった。
このほかも含め、各事例からは熱中症の怖さに対する認識の足りなさが伝わってくる。仕事熱心なあまり休憩も取らずに駐車場整理に当たっていた警備員が、翌朝、自宅で死亡しているのを発見された例などは悲惨ですらある。
昨年の死亡者続出が警鐘となって予防への知識が広まり、それなりの備えもできているはずとは思うのだが、発症パターンを参考に更なる注意を心がけるに越したことはない。〝症状を自覚した段階では時すでに遅し〟が熱中症なのである。