【主張】雇用へ影響心配な目安額
厚生労働省の中央最低賃金審議会(藤村博之会長)は、令和3年度地域別最低賃金額改定の目安について過去最高の上げ幅となる「28円」を答申した(関連記事=地域別最賃 28円引き上げ平均930円 中賃審が目安)。緊急事態宣言が繰り返され、今は事業者を守ることに専念すべきなのに、過去最高の引上げ額答申は到底理解できない。他の先進諸国と比較しても成長率や生産性で劣る実態をそのままにして、賃金だけ強制的に引き上げれば、雇用や事業継続にとってマイナスの影響が生じるのは明らかである。
本欄では、従来から今年度の最低賃金引上げに強く反対してきたが、予想に反する高額な目安が提示されたことは残念でならない。昨年度は、新型コロナウイルス感染症拡大による経済・雇用への影響を踏まえ、引上げ額の目安を示すことは困難で、現行水準を維持することが適当としていた。緊急事態宣言が何度も繰り返され、さらに疲弊している中小零細事業者の実態を考えれば、昨年度の引上げ凍結との整合性に欠けるのは明確である。
たしかに、大手企業などでは業種によって経営状況が好転して、好決算の発表が続くとともに、政府の税収も過去最高水準に達し、一般的な賃金引上げを行うべき条件は整ってきた。しかし、好決算の大手企業は、最低賃金とはほとんど関係がない。経営状況の好転を過去最高の目安額とする理由にはならない。
最も問題なのは、中途半端な財政出動である。成長率を高め、生産性を向上させながらそれに見合った最低賃金引上げを進めていくことが重要なのに、依然としてプライマリーバランスに考えをめぐらしている。その結果、過去に成立した補正予算ですら多くの部分が執行されず、中小零細事業者や国民に還元されていないという。
一部大手企業が好決算となっても、経済全体を視野に入れれば、成長とインフレ、生産性向上はほとんど期待できないのが実情といえる。まして、コロナ禍の中小零細事業者の経営状況は以前にも増して厳しい状況にある。「賃上げの流れを止めない」というが、最低賃金引上げとの関連は希薄という外ない。