【道しるべ】管理技能伝承 言葉だけでは継げないものが
最近はさほど話題に上らなくなった「2007年問題」の、その後の状況についてふれる機会があった。
昭和22年生まれ以降の団塊の世代の大量リタイアで生じる労働力不足と、技術やノウハウの引き継ぎの問題。これにどう対処して乗り切るかが当時直面していた重要課題だった。産業安全衛生も例外ではなく、この分野ではすでに安全管理に関わる組織の縮小・統合、要員とコストの削減などが進んでいたこともあって2003年あたりから危機感を募らせ、事故災害の多発も重なり深刻度を増していたと記憶している。
数年を経た今、課題はどの程度まで解決されているのか。とりわけ、安全担当何十年といったベテランの後釜は補充しきれているのか。個人の知識・経験・能力・意欲に依存する管理スタイルを組織的運用に切り替えるものとして労働安全衛生マネジメントシステムの導入が推奨され広まっているが、それが専門業務に長(た)けた人材の育成にもつながっているのか。業務への責任感や使命感だけでなく、無災害への闘争心、研究心、創意工夫の精神等々を旺盛にして事に当たった先人のような存在を現行の管理活動は求めていないのか。2007年前後に提示された問題を顧みると、そうした疑問が顔を覗(のぞ)かせる。
同じような想いを抱いて現況を問題視する人は意外と多い。特に現役を退かれた方にはである。日本造船協力事業者団体連合会の安全衛生チーフアドバイザーの鈴木滿さんもそのお一人で、災害と対峙されてきた体験から“安全のプロ”の後継者育成を説いて止まない。鈴木さんは同連合会の小島信樹さん(業務部・部長代理)の創案による「徒弟制度によるプロ養成講座」の講師として自ら培った知識と技能の全てを伝授中だが、産業安全の将来を考えれば今こそこの種の講座が必要不可欠と捉えているようだ。
「安全」は人が推し進めていくもの。そのためには常に、言葉や形式だけでは伝えられないものを次へ継ぎ残す必要がある、ということか。