キャリア・アンカー/みき社会保険労務士事務所 田渕 美紀
キャリア・アンカー――これは8年ほど前、キャリアコンサルティングの講義を受けたときに私の心に響いた言葉だ。講師の説明では、「キャリア・アンカーというのは、あなたという船を港につなぎ留めておく錨(いかり)・譲れないもの」ということであった。私はその言葉の意味を、自分が仕事をしていく上で大切にしているものは何かを知ることだと受け止めた。
キャリア・アンカーとは、心理学者エドガー・H・シャインが提唱する考え方である。
著書の「シャイン博士が語るキャリア・カウンセリングの進め方(白桃書房)」では、キャリア・アンカーはいくつかのタイプに分類される。
たとえば、得意分野の能力を伸ばすことが大切と考えるタイプや、昇進により自分自身を評価されたいタイプ、起業家的独創性を持つタイプ、保障と安定を求めるタイプ、社会貢献に価値を求めるタイプ、自分と家族ニーズを含め自分のキャリアを考えるタイプなどがある。つまりどのように働きたいか、何に価値を見出すかを知るということである。
さて、当時の私には2人の小学生の子供がいて、育児と仕事、さらに勉強に追われる日々であった。私にとってのキャリア・アンカーは、家庭のニーズを大切にしながらキャリアを考えるというものではなかったのだろうか。
キャリアアップと家庭を同時に求めたためにうまくいかないことも少なくなかったが、仕事の時間を少し減らして家庭に向き合ったことで、仕事への意欲も失うことなく今日を迎えている。
キャリアアップも大切だが、育児の時間は永遠に与えられているわけではなく、期間限定であると私は考える。今まで子供たちと向き合う選択をしたことを後悔したことはない。仕事で求められることが自分の価値観とかけ離れていれば幸せと感じられず、成果も出せないと知ったからだ。
キャリア・アンカーを知ることは、出産、配置転換、昇進、転職などキャリアを選択する場面で役立つはずである。さらに企業と従業員の求めるものがうまくマッチングできれば、企業の発展にも従業員の満足にもつながり、双方に有益なものとなる。クライアントに対しても労使双方に好循環が生まれることを念頭に仕事をさせていただいている。
私の子育ても卒業まであとわずか。またまた欲張りだと思われるかもしれないが、「人が育ち、企業が育ち、社会も育つ」、そのお手伝いができる、母親のような社会保険労務士を私はめざしたい。
みき社会保険労務士事務所 田渕 美紀【愛媛】
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