【ひのみやぐら】技能継承問題の切り札はAI
現場における技能継承問題は、団塊世代の大量退職時代に浮き彫りになった。決定的な解決を見ないまま時間が経ち、いつの間にか「古くて新しい問題」になっているような気がしてならない。
いかに効率よく若手を育てるかは、頭の痛い問題だ。かつては、熟練技能者はたくさんいて、そのなかから「教え上手」や「世話やき」な人を選んでOJTでじっくり育成することができた。現場に〝親父〟と呼ばれる人がいて、仕事だけではなく、私的なことにまで相談に乗ったものだった。
一方、現場に人が少なくなると、そうはいかない。人との付き合いが上手でない人もそれなりにいるだろう。「技術は教わるものではなく見て盗むもの」――このような考えの持ち主も決して珍しくはない。現場に熟練技能者が少なくなれば向き不向きに関わらず、誰もが指導役にならなければならないが、無理に教育に向かない人が指導をしたところで、後進の育成が上手くいくことはないだろう。
さらに、熟練技能者が教えたくとも自分の仕事で手一杯な状況もある。技能継承問題は現場の努力だけで解決できる問題ではなく、会社が存続するための重要経営課題として考えていかなければならない。
問題解決へ向けた手法として光明となっているのがAIだ。熟練技能者が長い時間かけて習得してきた技術は、暗黙知であることが少なくなかった。AIは、暗黙知であった技術に関する情報を収集し、整理・分析することで形式知とする。属人的でバラつきのあった判断や対応の平滑化を図り、社内で共有。データ化された技術、ノウハウはコンピューター上に保管され、必要な知識を適切なタイミングで引き出せるようにするというものだ。
人間には、どうしてもクセがある。人による継承の場合、教える側に偏りがあると後輩も、その偏りを受け継いでしまうことになる。その点、AIは基準が平準化されており、均一的な継承が可能といえる。
現在、AIによるシステムは、さまざまな企業で開発が行われ、技能継承問題解決の切り札になると期待したい。