【主張】新政権の労働経済に期待
厚生労働省と経団連から令和3年の賃上げ交渉結果が発表された(関連記事=【賃金調査】民間主要企業賃上げ 厚労省/令和3年)。厚労省集計では、賃上げ額5854円、賃上げ率1.86%、経団連集計では同6124円、1.84%となり、いずれも2%を割り込んだ。10年ほど前のデフレスパイラル時点の賃上げ率に等しい状態となっている。新型コロナウイルス感染症拡大の影響が大きいのはいうまでもないが、この状態を来年に持ち越してはならない。総裁選、総選挙を契機に経済政策を転換し、企業が自ら大幅賃上げできる環境を形成する必要がある。
3年の賃上げ交渉では、経済状況の悪化と政府の無策が相まって、近年にない厳しい結果となってしまった。賃上げは、経済好循環の達成に向けた出発点であるが、アベノミクスの取組み姿勢と比較するとあまりにも違いが大きい。当時、「官製春闘」と揶揄されたが、政府による賃上げ要請は決して間違った方策ではない。
懸念されるのは、官民の賃上げに対する消極姿勢が来年に持ち込まれ、再び低賃上げに終わってしまう可能性があることだ。バブル崩壊から始まった長期間にわたる経済低迷状態がさらに続くなら、国民の貧困化は避けられない。国民1人当たりGDPをみると、日本は、アメリカの6万3416ドル、香港の4万6753ドルよりも低い4万146ドルに留まっている。
良好な賃上げ環境を形成するには、まず政府の役目が大きい。「官製春闘」の再来とまではいわないが、賃上げの重要性を強くアピールすることに加え、今度こそ金融緩和と財政出動の積極化によるインフレ経済に持ち込む決意を固めてもらいたい。大規模な財政出動を実行して、企業の投資を呼び起こすことが賃上げの条件といえる。
近々のうちに、総裁選に続き総選挙が予定される「政局の秋」となっている。現政権は、賃上げばかりか、国民が求めている働き方改革の推進に対する発信、パフォーマンスが弱過ぎる。発信できなければ何も実施していないのと同じだろう。新しい日本の顔と経済・労働政策の転換に期待したい。