【主張】最賃政策の軌道修正望む
10月から全国で新しい地域別最低賃金の適用がスタートする。新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言が繰り返され、中小零細企業が疲弊しているなか、なぜ過去最大の引上げとなったのか…。本紙報道によると、都道府県の地方最低賃金審議会審議で全会一致で採決されたのは全国で3県だけで、ほとんどのケースで使用者委員が懸念を表明している。デフレ経済からの脱却が達成できない状況が続く限り、今後このような大幅引上げが強行されてはいけない。
新たな地域最賃は、全国加重平均で930円となった。中賃審が示した目安額である「28円」がそのまま上乗せされた。ほとんどの地域で、公労使の意見が割れ、全会一致とはならなかった。
島根県の最賃審では、使用者団体3団体が異議申出を行った(関連記事=地域別最低賃金 使用者3団体が異議申出 32円増に説明求める 島根商工会連合会ほか2団体)。同県において、全国でも最も高い32円、4%を上回る引上げが提示されたことに理解が及ばないためだ。使用者団体は、「地域最賃は、業種に関係なく一律に引き上がる。なぜこのタイミングで大幅引上げなのか」と疑問を訴えた。使用者団体は、引上げ額の根拠を説明するよう求めたものの、却下されたとして不満を表明している。
東京では、目安額に沿って28円引上げ、1041円となった。最賃審では、採決を前にして、使用者委員6人のうち、東京商工会議所や東京都中小企業団体中央会推せんの計3人が反対意見を述べた後、退席したという。残る3人の使用者委員は、採決の場に同席したものの、意思表明せず棄権した。
新型コロナウイルス感染症拡大が始まった昨年度においては、目安額の提示は困難として、地域最賃は全国的にほぼ凍結状態となった。感染拡大に対応した人流抑制と緊急事態宣言が何度も繰り返されている今年度の状況が、過去最大の引上げを許容できるほど改善したとは到底思えない。どちらかといえば、昨年度より深刻度は増している恐れがある。
すべては政権の雇用労働問題に対する知見と姿勢に掛かっている。近々成立する新政権では軌道修正を望みたい。