【主張】まず経済全体の底上げを
政府は、「新しい資本主義実現本部」をスタートさせた。デジタル化による生産性向上や事業再編などにより付加価値創造型企業経営に転換し、賃上げ・所得引上げ、人材投資の拡大をめざすとしているが、従来と同様の空振りに終わらないよう願いたい。理想的フレーズばかりが多数並んでいるが、日本の経済力全体の底上げを前提とし、相当な覚悟をもって大胆な対策を打つ必要がある。
成長と分配の好循環のイメージによると、科学技術立国、デジタル化による地方活性化、規制・制度改革、人重視の経営などで企業の成長力強化・生産性向上をめざし、賃上げ・所得引上げにつなげて分厚い中間層を形成するとしている。企業は、「三方良し」のステークホルダー重視に移行し、労働者の主体的キャリアアップ、雇用慣行の見直しを実施すべきとした。
経済成長により分配の原資を稼ぎ出し、次の成長につなげるという構図を描いているとみられる。分配より先に成長が必要なことは誰が考えても妥当といえるが、果たしてその肝心な成長が実現できるかどうか心許ない。心地よいフレーズばかりを並び立て関心を引いているが、目標が達成できなかった時の政権へのダメージは計り知れないと考えるべきだろう。
新しい資本主義を形にするために最も大切なのは、デジタル化や雇用慣行の見直しなどといったミクロ政策ではなく、まず経済全体を底上げするためのマクロ的視点に立った強力な対策である。経済全体の底上げができなければ、適正な分配もあり得ないし、賃上げ・所得引上げも画餅と化すだろう。
バブル経済崩壊後、政府が長期間にわたって実施してきたマクロ経済政策が、理想社会の成立を阻む最大の要因だったことは、いまや明らかである。いくら掛け声を強くしても賃金・所得は上がらず仕舞いで、国の相対的な経済力は衰えていくばかりだった。
発表では、55兆円規模の経済対策を実行しようとしているが、内容次第である。期待を裏切らない効果的な政策を打たないと、再び地を這うことになりかねない。