【主張】必要性増す転勤への配慮
厚生労働省が転勤に関する雇用管理のポイントを作成した。新卒一括採用を経てゼネラリスト育成をめざす従来型キャリア社員の比重が低下するなかで、社員の個別事情を念頭に置いた適法な配転命令の重要性が増していくと考えられる。とくに、若い世代の結婚・出産・子育てや職種・勤務地限定などのジョブ型社員の拡大へ配慮する必要性が高まっており、企業の人事労務担当者にとって有益な手引書となりそうだ。
転勤を含む企業の配転命令に関する判例では、すでに包括的合意説が確立している。東亜ペイント事件の最高裁第二小法廷判決(昭61・7・14)によると、就業規則などに配置転換を命じることができる定めがあり、しかも勤務地などの限定がない場合、基本的に企業は個別的同意なしに社員の勤務場所を決定できるとする考え方である。
新卒一括採用で幹部社員をめざす総合職が典型的である。職種・勤務地の限定がなく、カリキュラムに沿った様ざまなキャリアをこなし、その後にゼネラリストとして幹部社員に到達するコースである。企業経営の中枢を担うこうした幹部社員の配置転換では、現在も包括的合意説が有効に機能している。
しかし、近年増加しているジョブ型社員には特別な配慮が必要となる場合が大半だ。多くのケースにおいて、職種・勤務地などの限定があり、企業の配転命令に大きな制約が掛かってくる。
女性の雇用促進が政府の重要課題となっている現状にあって、結婚・妊娠・出産などに対する配慮が欠かせないのも事実である。老親介護を担わざるを得ない社員への配慮も同様だ。
非正規雇用労働者などの戦力化にとって、適法な配転命令は不可欠な条件である。社員の個別事情を考慮せず、同意を得ないまま実行してしまうと社員ばかりでなく企業側にも大きなダメージとなって跳ね返ってくる。
書面や面談を通じて日常的に社員の意向を把握し、受け入れ難い不利益が生じないよう十分注意を払うべきである。同手引書に沿った配置転換に徹してもらいたい。