【主張】地方独自の賃上げ対策を
本紙報道(関連記事=秋田県政運営指針 新卒所定内を全国平均に 賃金水準の目標設定)によると、秋田県は同県内の経済状況を客観的に分析したうえ、賃金水準の引上げ目標を設定した。長期間にわたって日本全体の賃金が高まらない実態にあるなか、独自に賃上げ目標を設定し、具体的なアプローチ策を打ち出しているのは特筆すべきである。政府による賃上げ政策が功を奏さない以上、他の多くの地域で独自の取組みに着手してはどうか。
同県によると、賃金水準が高い地域ほど人口流入が大きく、両者には相関関係がみられるとしている。人口流入増は、地域の経済活性化と生活レベルの向上とほぼ同義といえる。しかし、厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、同県の賃金水準は全国45位と低く、これ以上の低下は避けなければならない。
このため、同県は、行政資源を効果的・効率的に投入する「選択・集中プロジェクト」を立ち上げ、最も重視すべき賃金水準引上げに向けた対策を強力に推進する決意を明確にした。柱として、労働生産性向上と県内就職率向上を挙げている。
労働生産性向上では、即戦力となるプロフェッショナル人材の獲得支援、M&Aなど経営規模の拡大に取り組む企業への支援などを課題にしている。就職率向上では、キャリアコンサルティングを通じた職種転換などを挙げた。めざすべき賃金水準は2030年までに地方圏平均の年収400万円超とした。
同県の対策で注目されるのは、安易な最低賃金引上げではなく、労働生産性向上を起点としていることだ。近年、最賃引上げを急ぐ傾向が強まっているが、経済成長がほぼゼロの状態では、逆にパート、アルバイトが主力の中小・零細企業を悩ませるだけである。デジタル化などの設備投資を促進し、効率化するのが王道といえる。
長期にわたり日本全体の賃金水準が高まらないなか、大都市圏と地方との賃金格差も広がりつつある。このままの状態が続けば、地方の人口流出と経済の弱体化は避けられない。各地域で、実情に合った賃金引上げ対策を打ち出すべきである。