わたなべ社会保険労務士事務所 渡部 清香/対立構造からの脱却
「解雇」といえば労使の対立構造が浮かぶ。辞めてほしいと考えている使用者と辞めたくないという労働者。解雇に関する判例もさまざまなケースがあるが、裁判にまで発展するくらいなので、使用者と労働者の間には決して埋まらないであろう深い溝がある。
私自身は開業歴も浅く、そのような労働問題にまだ遭遇していない。漠然と、解雇は最終手段だからそうなる前に最善の方法を模索するべきだと考えているが、使用者と労働者の対立構造が変わることはないと感じていた。
私は今「100年企業研究会」という長寿企業に共通する哲学を学ぶ会に参加させていただいており、先日ちょうど解雇に関するテーマで講義を受けた。この会は、使用者と労働者が同じ立ち位置で目標に向かう長寿企業に伝わる仕組みや哲学を紐解き、使用者と労働者といった立場を超えた、共同体としての労使関係について深く考える学びの場になっている。
その中で、「親の立場になって考えたとき、自分の子供に転職を勧めることもある。子供の将来の幸せを考えたなら、転職をすることが望ましいケースは少なくはないだろう」という発言があった。確かに会社組織の風土や理念に合わない社員がいたとき、お互いに居心地の悪さを感じるのであれば、そのままその組織の中に居続けることは不幸ともいえる。「自分の子供ならどうするか」という視点があると、ただ単に問題社員としてしかみていなかった労働者だったとしても、その労働者の「これから」を一緒に考えることができるかもしれない。
そう考えることができれば、解雇は対立ではなく、ともに労働者本人のキャリアデザインを考える仕組みになり得るのではないだろうか。どうすれば本人が活躍できるのかということを話し合っていけば、最終的に解雇という手段を使わずとも合意解約となるかもしれない。人間は感情の生き物だ。よく知らない相手には優しくできないが、相手を知れば知るほど優しくできる。使用者と労働者の立場の違いも、お互いを知ることで少しでも理解し合えるようになるのではないだろうか。
口でいうのは簡単だが、実際に使用者と労働者が立場の違いを超え、共同体として未来に向かうためにはさまざまな仕組みが必要だ。その仕組みの構築のために、社労士としてできることを考えていきたい。誰も好き好んでもめ事を起こしたいわけではない。もめ事になる前に少しでもその可能性を消していきたい。
わたなべ社会保険労務士事務所 渡部 清香【愛媛】
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