「人の専門家」という強み/社会保険労務士法人労務サービス 代表社員 高橋 謙一
ある時、社労士以外の士業資格を有する人気ユーチューバーが「雇用関係助成金の解説」「失業手当のもらい方」などの動画を配信していることを知った。資格業ならではの独占業務という枠組みからは違和感を覚えたが、同時にインターネットが社会の隅々にまで行き渡る時代において、人々はどのように情報を取得するのか、そしてこれからの専門家のあり方について考えさせられた。
情報自体が少なかった時代は情報を求める人が専門家を探して相談した。つまり、一般の人が専門家の業務範囲に合わせて情報取得に動いた時代だった。しかし、インターネット上では立場が逆転している。一般の人(視聴者)の価値観に合わせて情報発信者(専門家)が情報を提供する。情報発信者が専門分野外の情報を発信しても、視聴者側に違和感がなければコンテンツとして成り立つのである。
たとえば、労務を専門としない資格の保有者が「お金」をテーマに情報発信をしているとする。その中で、実務で扱ったことがない専門外の助成金や失業手当を「お金」にまつわる内容として取り上げて解説しても、多くの視聴者は一貫性があるものとしてこれを違和感なく受け入れるのである。
一方で、企業の人事の方、社労士、弁護士、労働組合関係者など「人の専門家」が情報発信をするときにも状況は同じであるといえるだろう。
人事、人材、仕事(労働)などは重要性、柔軟性において最高のテーマであると思われるが、これらのテーマを掲げても違和感のない専門性が「人の専門家」にはあるだろう。「人」をテーマにすれば、たとえば賃金の延長で所得税について説明し、社会保険の延長で民間保険を取り上げ、労務の延長で組織を語ることもできるだろう。
私は普段、労務顧問、社会保険、給与計算サービスを中心とした事務所を経営しているが、一昨年から、SNSを通じて組織のリーダーへ向けて組織運営や経営のヒントになる記事を発信する活動も行ってきた。noteというSNSで1万人以上のフォロワーを獲得しており、普段の業務ではフォーカスしない「リーダー」というテーマでの記事制作であっても、普段の実務経験が生きている。また、SNS記事の著者紹介の欄で、「人の専門家」としてアピールできるメリットを実感している。
今後、インターネットは私たちの生活にさらに浸透し、さまざまなものを変えていくことが予想されるが、その活用の仕方次第で「人の専門家」の価値は一層高まるだろうと考えている。
社会保険労務士法人労務サービス 代表社員 高橋 謙一【東京】
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