【主張】意識転換し人材投資強化
岸田政権が政策の柱に据えている「人への投資」を契機に、企業は人材育成への考え方を大きく転換すべきである。日本企業の人材育成投資は、世界と比較してあまりにも貧弱である。デジタル化やカーボンニュートラルが加速しつつある現在、人材育成を取り巻く環境が急速かつ広範に変化している。この流れに乗れなければ、企業も日本社会全体も再び長期停滞の渦に落ち込んでしまう。
日本のGDP(国内総生産)に占める企業の能力開発費の割合は、欧米先進国と比較しても10分の1程度と低迷している。バブル経済崩壊以降、人件費や能力開発費の削減が数十年にも渡って継続した結果、能力開発が不十分となってしまったばかりか、有能な人材の多くは海外に逃避した。日本は、デジタル分野などの先端研究開発から大きく取り残された。
岸田政権の「人への投資」は、3年で4000億円規模の政策パッケージとされている。世界の経済社会が、デジタルとカーボンニュートラルなどをキーワードとして大きく変革しつつあるなか、人への投資を積極化して新たな付加価値を創出する力を強化する考えという。
企業も、これを機に改めて人材育成に力を入れ、人への投資を厚くする必要がある。人材投資の重要性を再認識し、広く考え方の転換を図ってほしい。仮に短期的な成果につながらないとしても、中長期的には必ず大きな成果となって返ってくる。
OJTの強化はもとより、Off-JTにも力を入れて、より幅広い知識習得を支援すべきである。職業人生の節目ごとや労働者からの求めに応じてキャリアコンサルティングの機会を確保することも有効となろう。今後求められる能力・スキル目標の明確化やキャリアの棚卸しを行って、身につけた力の発揮につなげていく。
日本企業の先端研究開発が世界に後れを取った根本原因の一つは、人材にかかわる経費をコストと位置付け、数十年間もの長期に渡って削減に励んできたことにある。今こそ優秀な人材が多く集う企業をめざすべきである。