【本棚を探索】第12回『プロ野球と鉄道 新幹線開業で大きく変わったプロ野球』田中 正恭 著/カネシゲ タカシ
優勝の陰に新幹線あり!?
野球好き漫画家を長くやっていると、さまざまな野球ファンの方と交流する機会がある。そこで気付いたのは「野球ファン兼鉄道ファン」がすごく多いという事実だ。男性中心だが一部女性もいる。会話にふと出た鉄道の話題がいちいち盛り上がることで発見した。
かくいう自分も幼少期からの鉄道好きで、野球好きだ。出身は大阪で、子供のころは近所を走る京阪電鉄が球団を保有していないことが心底残念だった。「阪神も阪急も南海も近鉄も、みーんな持ってるのに!」とファミコンを買ってもらえない子供のように悔しがった(ファミコンも買ってもらえていなかったが)。
そんなわけで先日「鉄道ファンはなぜ野球も大好きなのか」をテーマにオンラインイベントを行った。「なぜ」と掲げたものの結論は簡単。「親和性が高すぎる」の一言に尽きる。何せ鉄道会社がこぞって球団を持っていた時代があったのだ。また、野球を観に行けば鉄道にも乗る。ラッピング車両やコラボグッズも豊富。好きになるなという方に無理がある。
『プロ野球と鉄道』は、そんなイベントの参考文献の一冊だ。プロ野球黎明期から切っても切れない関係にある鉄道と、その両方にまたがるあらゆる事象を紹介してくれる。
マニアックな豆知識も豊富だ。たとえば兵庫県を走る山陽電鉄がかつて球団を保有していたと聞けば驚く人が多いだろう。これは「山陽クラウンズ」という球団で、1950年に創設され明石球場を本拠地にしていたという。現在のウエスタンリーグにあたる2軍組織に所属していたが発足わずか3年で解散。知る人ぞ知る幻の球団となった。
「幻」つながりでいうと、中央線・三鷹駅の北側に5万人収容の巨大スタジアムと専用路線があったこともあまり知られていない。これは1951年開場の「武蔵野グリーンパーク野球場」で、三鷹駅から球場までの3・2キロを、同時開業した国鉄の支線がつないだという。しかし軍用工場跡に急ごしらえで作られた球場のため利用者の評判が悪かった。開場後まもなく都内近郊の球場不足が解消されたこともあり、公式戦が開催されたのは最初の年の16試合のみ。わずか5年で解体されたというのはあまりに悲劇ではないか。
また、サブタイトルに「新幹線開業で大きく変わったプロ野球」とあるように、遠征手段としての鉄道にも紙幅を割く。セ・リーグで遠征がもっとも過酷だった広島カープは山陽新幹線の岡山・博多間が開業した1975年に初優勝した。当時、外木場義郎投手が「優勝は山陽新幹線のおかげ。それぐらい移動が楽になりました」と語ったことからも、それ以前の在来線と新幹線を乗り継いだ遠征が相当なハンデだったことが伝わる。それでいてカープは年俸も安かったんだから、どう考えても割りに合わない。「痛みに耐えてよく頑張った!」と当時の選手らに声をかけたい気分だ。
ほかにも現在の12球団本拠地の鉄道事情は旅レポの趣があるし、国鉄愛あふれる金田正一氏のインタビューも楽しい一冊である。
(田中正恭著、交通新聞社刊、880円税込)
選者:漫画家 カネシゲ タカシ
75年生まれ。主な書籍には『あるあるプロ野球』シリーズ、『野球大喜利』シリーズなど。現在は、『サタデーステーション』のイラストも担当。
書店の本棚にある至極の一冊は…。同欄では選者である濱口桂一郎さん、三宅香帆さん、大矢博子さん、月替りのスペシャルゲスト――が毎週おすすめの書籍を紹介します。