【主張】1件も見逃すな不正受給
雇用調整助成金の不正受給件数が、令和2年9月~3年12月までに261件、金額にして32億円に達していることが、厚生労働省の集計で分かった(=関連記事:雇調金不正受給 261件32億円超える 従業員から通報増加 厚労省)。全体の雇調金支給決定件数560万件、金額5兆3000億円を念頭に置けば、決して多い数字とはいえないだろう。しかし、不正受給は公正競争の観点から1件も許してはならない。明るみに出ていない不正受給が少なくないとみられ、引き続き追及の手を緩めないで欲しい。
多い時には1日に1万件以上の支給申請をこなさなければならない状況にあったことを考えれば、発覚した不正受給件数は決して多い割合とはいえないだろう。事務当局のコントロールがうまく機能していたとみることもできる。
しかし、雇調金の支給拡大が今後も続くことを考慮すれば、これで終わったわけではない。まだ明るみに出ていない不正受給も少なくないと推察される。支給申請が一段落した今後において、本格的に不正受給の追及に力を入れるべきである。雇用保険財政の観点からも1件も許してはならない。
企業の担当者やそれを支援する社会保険労務士に対しては、強い警鐘を鳴らしたい。休業していない社員を休業したように装ったり、休業手当を支払ってないのに支払ったと偽るなどの不正受給に対しては、ケースによって厳しいペナルティーが用意されている。対象には不正受給の「指南役」も含んでいる。
厚労省によると、都道府県労働局などによる予告なしの立入調査、不正受給発覚事業所や指南役の積極的公表、不正受給額の2割増返還請求、雇調金を含む雇用関係助成金の5年間にわたる不支給措置などの厳しい対応を実施しているのが現状である。悪質な場合には、詐欺罪の刑法犯に問われかねない。
内部通報による不正受給の発覚が増加している点にも注目したい。厚労省は、不正受給に関する情報を把握した従業員に対して一報を入れるよう呼び掛けている。申請内容を誤ったり、受給した助成金の返還が必要な企業は、自主的に都道府県労働局に連絡を入れるよう勧めたい。