【主張】司法処分減少に歯止めを
厚生労働省は、「令和4年度地方労働行政運営方針」をまとめた。法定労働条件の確保に関し、事業場における労働条件の管理体制確立を図り定着させるため、労働基準関係法令の遵守徹底を図り、重大・悪質な事案に対しては、司法処分も含め厳正に対処すると明記している。しかし、近年、伝家の宝刀としての司法処分件数が長期的に減少傾向にある。まずは、労働基準監督官の人数を国際レベルにまで引き上げる必要がある。
事業場における最低労働基準の遵守は、労働者の待遇改善はもとより、企業間の公正競争の大前提である。運営方針に示す通り、重大・悪質な事案に対して司法処分も含めて厳正に対処することが、政府の産業界に対する貢献の一つといえる。とくに、若者を使い捨てるブラック企業を見逃してはならない。
しかし、司法処分件数は、長期的に減少傾向にあるのが実態。令和2年の司法処分件数は年間887件だが、10年前の平成22年は1157件だった。27年に1000件を切り、近年では800件台が常態となった。この間、事業場の違法状態が全体として大きく改善しているのなら良いが、その確証はない。
司法処分件数の減少に歯止めが掛からない大きな要因として、従来から労働基準監督官の少なさが問題視されている。業務の多様化と公務員の全体的な削減の影響もあり、監督官が本来の監督業務に専念できないという声も出ている。察するに司法処分1件を処理するには、捜査の着手から始まって相当な期間と業務量をこなす必要があろう。
日本の監督官の人数は、国際的にみて相当に劣っている。ILO(国際労働機関)のデータをみると、労働者1万人当たりの監督官数は、日本の0.45人に対して、韓国0.71人、スペイン1人、ドイツ1.39人などとなっている。ちなみにアメリカは、0.07人と極端に少ない。
事業場において労働条件の管理体制確立を図り、定着させるためには、司法処分の可能性を暗示することも効果的である。全体の公務員数は削減しても、監督官はその例外とすべきだ。