【主張】キャッシュレス化を急げ
資金移動業者を利用した賃金振込み制度がいよいよ実現しそうだ。現在、厚生労働省内で詳細な制度設計案が議論されており、年内に決着する可能性も出てきた(=関連記事:賃金のデジタル支払い 自由意思に基づく同意必須 破綻時保証など説明し 厚労省が制度像整理)。現状で実施されている銀行口座振り込みに比較して、業者の信頼性が劣ることが最も問題であり、賃金確保上の安全性をないがしろにした見切り発車はできない。制度開始後にトラブルが増えるようなことがあってはならない。導入へ向けては、スピードと安全性を両立させる必要がある。
厚労省によると、制度設計の大きな柱の1つは、労働者の同意を前提すること、2つ目は全80社のうち一定の要件をクリアした資金移動業者にのみ賃金支払い業務を認めることとしている。
前者に関しては、資金移動業者の口座への賃金支払いについて、労働者に強制しないことが重要となる。規制内容や破綻した場合の保証のスキームなどを確実に理解した上での労働者の同意を得る。銀行口座への賃金支払いと同様に労使協定を締結することが要件となる見通し。資金移動業者の選定では、破綻した場合の保証、アカウントの乗っ取りなどの不正利用が行われた場合の労働者への損失補償と、賃金支払いに関する業務の実施状況について厚労大臣に適時報告できる態勢を有することなどが条件となる見込みだ。一旦要件をクリアしてもその後問題があれば指定取消しも可能とする。
制度開始後に賃金確保上のトラブルが増加することのないよう十分配慮がなされるであろうが、すでに議論は時間切れとなっている。2021年6月に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」では、労使団体と協議の上、「21年度できるだけ早期の制度化を図る」と明記していた。
日本は、それでなくてもキャッシュレス化が大幅に遅れている。銀行口座に振り込まれた給与を一旦キャッシュレス・サービスに移し決済する手間を早く断ち切りたい。とくに、若年層の利便性向上が大いに期待できる。パンデミックの経験もキャッシュレス化の必要性を証明した。遅くとも年内には制度を確定し、早期の実施を求めたい。