労働基準監督官との違い/グッジョブ社労士事務所 合田 弘孝
本格的に社会保険労務士としての仕事をして5年になる。元労働基準監督官として最前線で労働相談を受け、培ってきた経験を役に立てるべく、いろいろな相談に応じている。
しかしながら、監督官と社労士としてのアドバイスが微妙に異なることに気付かされる。
たとえば、36協定(時間外・休日労働に関する協定)について、監督官の時には、届出の形式的な記載の漏れがないかチェックして、次に、時間外労働が長い場合は指導文書なども活用して、時間外労働の限度時間内に抑えてもらうよう指導する。
ところが、社労士としてのアドバイスは異なる。36協定の形式的なチェックの前に、会社の労働時間の実態把握から始めなければならない。そもそも、本当に残業が必要か、労働基準法第32条の原則時間で収まらないのかについて、担当者だけでなく、各部署に時間をかけて検討してもらう。その際に、パソコンのログイン・ログオフを含め、「労働時間とは」の基本的な考え方を説明し、労働者全員の労働時間の状況を教えてもらう。やはり、現実として「時間外労働なし」は難しいようである。
それならば、時間外労働が限度時間で収まるよう検討することを納得してもらう。
長時間労働者が認められれば働き方改革などの趣旨を説明し、理解をしてもらう。特別条項などを使用しないで済む体制づくりを一緒に検討していく。そうして、ようやく36協定の記載が始まるのである。
つまり、労働基準監督官と社労士としての36協定のアドバイスは、極端にいえば、ベクトルが逆なのである。
監督官の時には個別の会社の状況はあまり顧みることなく、労基法を順守してもらうように説明指導をしていたが、社労士になると、同法に抵触しないためにはどうすれば良いのかの説明になる。
同じように思われるかもしないが、違うのである。当たり前だが、監督官は法令から会社をみる(法令⇒会社)。全国どこに異動しても法令を正確に理解していれば、仕事はできた。一方、社労士は個々の会社の現状を踏まえ、法令に抵触しないように現状を変えていただくのである(会社⇒法令)。法令を熟知していても難しい面がある。
紙面の都合で具体例は控えるが、解雇や賃金不払いの相談についても同様である。
元監督官の社労士として、熟知している関係法令を駆使しながら、会社の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資することに近づければ幸いである。
グッジョブ社労士事務所 合田 弘孝【香川】
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