会社存続へ年休完全取得/曽我社会保険労務士事務所 所長 曽我 浩

2017.06.04 【社労士プラザ】
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 やっと社会保険に加入した会社がある。社員の会合で中年の女性から質問があった。

 「今度社会保険に加入すると年次有給休暇をいただけるようになるのでしょうか」。私は「社会保険に加入しようとしまいと有給休暇は取れますよ」と話そうとして思わず言葉を飲み込んでしまった。

 社長が何ともいえない渋い顔をしているのだ。その会社では創業以来有給休暇を与えたことはない。「労働者もおかしいな」と思いつつ誰も有給休暇を請求していなかった。

 こういった会社があるから、日本の有給休暇取得率は50%未満。ある旅行会社の調査によると取得率は39%と、先進国の中で6年連続最下位だ。

 政府の働き方改革実現会議の中心メンバーの水町勇一郎東大教授とたまたま電車で隣り合わせになった。その時教授は「だいたいヨーロッパでは有給休暇の取得率という考え方はない。100%が当たり前」と話してくれた。

 アベノミクスで景気が良くなったと実感している人はどれだけいるだろうか。

 非正規雇用労働者が労働者全体の約40%、年収200万円未満の労働者が28.3%では実感できないのも無理はない。

 本気で働き方を考えるなら、有給休暇完全取得の実現が不可欠だと思う。完全取得の効果は「12兆円の経済波及効果と150万人の雇用創出」(平成14年経済産業省、国土交通省等の報告)といわれる。有給休暇の完全取得こそ経済発展のコロンブスの卵なのだ。

 フランスでは1930年代にバカンス法を制定し、今日では6週間も取る人もいる。これはマイケル・ムーア監督の映画「世界侵略のススメ」が分かりやすく紹介している。フランスでは当初2週間の休みを与えたが、労働者には金がない。ではどうするか。「自転車で旅しろ」ということになった。こうした文化を背景に自転車スポーツ「ツール・ド・フランス」が生み出された。

 大きな問題になっている過労死に至ってしまう人の共通点は、長期の休暇を取っていないこと。一方、会社発展のためには若手社員がどんどん入社してくることが重要だ。長期の有給休暇は労働者の健康を守るだけでなく会社存続の要件である。

 私は、「若者を惹きつける最も重要な要因が有給休暇の完全取得」と経営者に話している。募集人員の何十倍もの応募者が集まる未来工業㈱(岐阜県)は、残業なしで年間休日140日、有給休暇40日だ。

曽我社会保険労務士事務所 所長 曽我 浩【千葉】

【公式Webサイトはこちら】
http://www.sogaoffice.jp/

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    平成29年5月29日第3115号10面 掲載
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