【主張】不十分だった春季賃上げ
2022年の春季賃上げ交渉状況がほぼ明確となってきた。岸田文雄総理大臣は「3%を超える賃上げ」を期待するとしていたが、5月末に連合(芳野友子会長)が実施した集計結果によると、賃上げ率の加重平均は2.09%となっている。本欄では、今季労使交渉が始まる前の2月の段階で「2%台に乗るか否かの水準」との見方をしていたが、ほぼそのとおりの流れとなっている。この水準では、エネルギー価格などの上昇によるインフレを克服できない。好循環を達成するために、思い切った経済政策を実施すべきである。
世界の先進国経済は、新型コロナウイルス感染症から脱して、大幅なインフレ期に差し掛かっている。アメリカの状況をみると、雇用環境が大きく改善した結果、4月の平均時給は前年同月比5%を上回る高い伸びを継続している。賃金の伸びは、その国の経済力の増強につながるのはいうまでもない。
連合が5月末までに実施した第6回集計によると、平均賃金方式で回答を引き出した4331組合の「定昇相当込み賃上げ計」は、加重平均で6049円、引上げ率2.09%となり、前年同期比816円、0.3ポイント上昇した。また、300人未満の中小組合3079組合では同じく4857円、1.97%、前年同期比526円、0.23ポイント増となった。
期待された3%に到達しないばかりか、2%前後に留まり世界先進国との経済格差が広がるばかりとなっている。22年の消費者物価は、エネルギー価格の上昇が牽引する形で前年比2%以上へ高まる可能性が指摘され、家計は防衛に回らざるを得ない。国民の消費を拡大して、好循環を達成するにはとても足らない賃上げ率という外はない。
日銀は、物価の安定的な上昇実現をめざし必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続するとしており支持できるが、政府による財政出動が弱過ぎる。これまで掲げてきた財政健全化は一旦棚上げし、企業が自ら賃上げし得る経済・雇用環境を形成すべきである。賃上げは、春季労使交渉だけに依存できない。