【主張】裁量制拡大は健康優先で
厚生労働省の有識者検討会が裁量労働制の見直しに向けた議論を進めるなか、政府は6月7日に閣議決定した「規制改革実行計画」で、検討会での議論を加速し、令和4年度中に結論を得る方針を示した。裁量労働制は、柔軟な働き方として生産性の向上に寄与する効果が期待される一方で、労働者側の裁量が小さかったり、業務量が過大だったりした場合には長時間労働につながる恐れがある。対象業務の拡大など制度の見直しに当たっては、過重労働による健康障害の防止に向け、健康・福祉確保措置の拡充を前提としてほしい。
厚生労働省がこのほど公表した令和3年度の過労死等の労災補償状況によると、裁量労働制対象者の脳・心臓疾患に関連して業務上・外の決定を行った件数は4件で、そのうちの2件に対して労災保険給付の支給を決定した。精神障害については16件の業務上・外を決定し、そのうち7件を支給決定している。過去5年間の支給決定は、脳・心臓疾患が年間1~4件、精神疾患が同5~10件で推移。令和3年度における業務上・外決定件数に占める支給決定件数の割合は5割弱となっており、3割程度だったすべての労働者(裁量労働制対象者を含む)に比べて高い。
同検討会のこれまでの議論では、働きすぎによる健康障害を防止するための方策が大きな論点の1つになっている。企業に求める健康・福祉確保措置については現在、告示において、把握した勤務状況や健康状態に応じた健康診断の実施、代償休日・特別休暇の付与、必要な場合における適切な部署への配置転換などを例示している。同検討会では、実施すべき事項として限定列挙する方式への変更を提案する意見があった。勤務間インターバルの導入が効果的との指摘もみられた。
健康を確保する観点からは、時間外労働が一定時間を超えて健康を害する働き方になっている労働者について、裁量労働制の適用対象から外す仕組みの導入も課題といえるだろう。制度見直しに当たり、健康障害防止を最優先としつつ、働き方の柔軟さを追求する制度をめざすべきだ。