「想・創・奏」の精神を胸に/中條聡子社会保険労務士事務所 所長 中條 聡子
私は開業するまで、クリエイティブ業界の事業会社で人事担当の勤務社労士として、12年ほど勤めていた。
その前は金融機関に勤めていたため、クリエイティブ業界とは無縁だった。入社した時の私のミッションは、すでに100人くらいの社員がいる同社の就業規則を作ること。現状を確認していくと、出勤簿はない、年次有給休暇管理はしていない、取締役ですら「うちは年俸制だから、残業代を支払わなくて良いんだよ」という始末だった。
就業規則を作りながら、労働時間管理問題についても取り組んでいくことになった。
半年ほどかけて、ウェブでの勤怠管理システムを導入し、専門型裁量労働制とフレックスタイム制を入れた就業規則を作成。何とかミッションを果たしたつもりでいた。
だが、元々、他人に縛られずに自由な発想で物を創ることが好きな社員たちは、会社が作ったルールを簡単には理解してくれなかった。「今まで問題なく皆で楽しく働いてきたのに、人事に変な女が来てから面倒になった」などと言われ、どうしたら良いのか途方に暮れた。
その時、当時の人事部長からは、「何のために就業規則を作った? 法律で決まっているから? 法律は何のためにあるんだろうか」と声をかけられた。私は答えられなかった。「早く何とかしないと会社が法律違反になってしまう」という思いだけでやってきてしまったのである。
人事部長は、「人事の仕事は、社員を想い、社員を創り、社員に奏でてもらう。そういう仕事なのではないか。想(そう)・創(そう)・奏(そう)だよ」と話してくれた。目からうろこが落ちるとはまさにこのことだった。
それからは、ルールを押し付けるように説明するのではなく、社員一人ひとりと面談し、誰がどのような仕事をして、どんな苦労や悩みがあるのかを聞きながら、社員を守るために就業規則や会社のルールがあることを説明していった。すると、全員が夜遅くまで仕事をしたいと思っているわけではないことや、ハラスメントに関する悩みなど、さまざまな問題があることが分かってきた。一つひとつ会社に報告し、少しずつ解決するために社員と会社の橋渡し役を担っていったのである。
開業してからは、顧問先の社員の方にお会いする機会はほとんどない。しかし、「想(そう)・創(そう)・奏(そう)」の精神を忘れずに業務をすることが、顧問先企業の成長と社員の活躍につながると信じ、これからも邁進していきたいと思う。
中條聡子社会保険労務士事務所 所長 中條 聡子【千葉】
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