【ひのみやぐら】解体工事は「事前調査」が肝
先日、会社の近くで住宅の解体工事が行われていた。重機の音が多少耳障りであったが、3日もかからずに終了し、あっという間にきれいな更地を作り上げた。職人の巧みな仕事ぶりに思わず、感心してしまった。
住宅はもとより、東京都心部では再開発事業が頻繁に行われており、解体工事を目にすることが多くなった。ご承知の通り、わが国のインフラは老朽化が進み、解体工事の増加とともに、労働災害の可能性も高まることが予想される。
建築現場は工事が進むに連れて堅牢になっていくのに対し、解体は進捗によって建物が不安定になっていくという特徴がある。また、近隣の建物、塀などを破損させてしまうリスク、重機や車両との衝突事故、外壁の倒壊や崩壊、ガス管を切断したことによる爆発、石綿の飛散など実に危険が多い。さらに労働者に高齢者や外国人が少なくなく、労務管理に一層の配慮が求められる現場といえる。
適切な足場の設置、警備員の配置、作業手順の徹底など必要な安全対策はさまざまあるが、最も重要な取組み事項のひとつに「事前調査」が挙げられるだろう。国土交通省の「建築物の解体工事における外壁の崩落等による公衆災害防止対策に関するガイドライン」でも特に留意する事項に掲げている。発注者から解体物の設計図書の情報を可能な限り得るようにし、情報が少ない場合は、事前に必要な調査を行う。境界線や地中物など実際に現場に行かないと分からないことが多い。現場で一通り確認したうえで、適切な施工計画を作成することが大切だ。
なお、石綿障害予防規則が改正され、今年4月1日からは一定の解体・改修工事を行う場合、石綿含有の有無の事前調査結果を労働基準監督署に報告することが義務付けられている。
このように危険の多い解体工事だが、実は定義が明確ではなく、データを集めるのが難しい。今号、別冊付録「事例から学ぶ解体工事に伴う労働災害防止対策」は、労働安全コンサルタントの井口詔一郎さんが集計した貴重な資料だ。関係する業界の読者諸兄は、ぜひ役立ててほしい。