【主張】デジタル払いの利点必要
いわゆる「賃金のデジタル払い」について、解禁の見通しが固まった(関連記事=デジタル払い 口座残高上限100万円に 来年4月スタートへ)。すでに「労働基準法施行規則の一部を改正する省令案」としてパブリックコメントにかけられており、11月には公布、来年4月1日の施行を見込んでいる。規制緩和の恩恵に預かる資金移動業者(=電子マネーの事業者)にとっては待望の第一歩かもしれないが、利用する使用者側には必ずしも使い勝手が良い仕組みになったとはいい難い。
まず見逃せないのは、通貨払いかデジタル払いかの二者択一が認められず、引き続き「銀行口座への振込み」という選択肢を用意しなければならない点だ。振込先を一本化できないのなら、事務の省力化にはつながらない。利用に際しては必要事項を労働者に説明したうえ、個別に同意を得ることも求められる。
労働者個人にとっても、すでに光熱費や住宅ローンなどの引落しがある場合、あえて現在の振込先を見直すニーズは高くない。給料日当日に手続きなしでキャッシュレス決済が利用可能になるといわれても、実際にはその手続き自体がスマートフォンから瞬時にできてしまう。結局のところ、賃金の一部だけデジタル払いという併用型でなければ、めだった誘引効果は期待できまい。
口座残高の上限額が100万円以下となる点も、果たして誰のための解禁なのかと思わせる。もしもの際に賃金の保全が図られることは労使双方にとって大前提だが、図らずもその面での限界を露呈した感が否めない。裏を返せば「100万円まで」に制限するからこそ、迅速に保全がなされるメドがつく――そう受け取られても仕方がない。数日後には1000万円までの払い戻しがなされる銀行口座との違いは明白だ。
今後、デジタル払いの普及を図るためには、なにより資金移動業者側の経営努力が求められる。2年に及ぶ協議で出された数々の懸念に対しては、一応の改善策が示されてきた。事業者には単にキャッシュレス決済の利便性をアピールするに留まらず、労使に対して分かりやすいメリットを提示してもらいたい。