【主張】職務給の前に相場形成を

2022.10.20 【主張】
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 新しい資本主義を標榜する政府は、このほどまとめた総合経済対策の重点事項のなかに、官民で来年6月までに「労働移動円滑化のための指針」を策定する――と盛り込んだ。転職を促すリスキリング支援策を整備するのに加え、「年功制の職能給から日本に合った職務給への移行」を進めるとしている。果たしてどんな仕組みが日本に合った職務給と位置付けられるのか、労使にとって見逃せない。

 9月に訪米した岸田文雄内閣総理大臣は、ニューヨーク証券取引所で行ったスピーチでも、英語で同趣旨の発言をしている。あえて「年功制の職能給から」と言及されたところに、眉を顰めた方も多いのではないか。この二十年余りに国内で導入された新人事制度は、ほぼすべてが年功主義をめざしてはいない。役割や職務、あるいは成果などを基準に処遇するため、給与体系はもちろん、等級体系や評価制度で多様な工夫が試みられてきた。未だに年齢昇給を前提とする制度が幅を利かせているかのような表現には、素直に耳を傾けられない。

 転職によるキャリアアップを促すには、そもそも制度よりも賃金相場の形成が求められる。将来の年収をイメージできなければ、リスキリングへの動機付けは働かない。たとえ制度という器をつくっても、水準決定の参考にする相場がなければ、個々のポジションの賃金は結局、自社の賃金支払い能力と社内の序列で決まっていく。

 たとえば年収740万円の係長が、転職して年収590万円の課長になろうとは思うまい。ところがこれこそが国内の賃金事情であり、2つの数字はそれぞれ賃金構造基本統計調査の1000人以上の係長級、10~99人の課長級の平均値から試算したもの。職種のレベル別や職務の価値という切り口では、こうした比較すらままならない。

 個人のリスキリング支援に対し、5年間で1兆円を投じるという方針は頼もしい。従来の離職者対策とは一線を画す能力開発支援に期待したい。実効性を確保するには、職務給導入に対する助成以前に、デジタル人材などの相場形成が求められよう。

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令和4年10月24日第3373号2面 掲載
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