【主張】健康課題の多様化に対処
厚生労働省が設置した有識者検討会で、今後の産業保健のあり方に関する議論がスタートした(関連記事=産業保健活動 業務外疾病への対応課題に 検討会で対策議論 厚労省)。
精神障害による労災認定件数の増加をはじめ、高年齢労働者の増加に伴う健診有所見率の上昇、新型コロナウイルスの感染拡大、テレワークによる健康不調など、労働者の健康の保持増進に関連する問題は多様化・深刻化している。検討会での議論を通じて、多様化する健康課題それぞれについて、産業保健における効果的な取組みを具体的に提示してもらいたい。
労働者の健康に関する現状をみると、脳・心臓疾患の労災認定が減少傾向にあるものの、精神障害の認定件数は依然として増加し続けている。メンタルヘルス対策の一環であるストレスチェックは、実施が義務付けられている労働者50人以上規模事業場で実施率が9割を超えるのに対し、50人未満事業場は6割程度に留まる(厚労省「令和3年労働安全衛生調査」)。職場改善まで実施しているのは、全体の3割程度にすぎず、ストレスチェック制度が結果的に不調者の減少に結び付いていない点は看過できない。同制度を含めた民間の健康管理支援サービスの利用促進なども検討できよう。
高血圧症や糖尿病などの有病率が高まる60歳以上の雇用者数増加に伴い、健診有所見率が上昇していることから、疾病管理や重症化予防も大きな課題になっている。何らかの疾患で通院している労働者割合は平成31年時点で37%に上り、22年からの9年間で5ポイント増加している(厚労省「国民生活基礎調査」)。一方で、反復・継続して治療が必要な疾病を抱える労働者のうちの約2割は、必要な配慮を受けられなかったと答えている。
労働力人口が減少する局面にあっては、疾病による離職の防止は経営課題ともいえる。がんなどの病気の治療と仕事の両立に向けた労働者の疾病管理や就業管理を適切に講じる必要があるだろう。
女性活躍推進が政府の重要事項に掲げられるなか、女性特有の健康問題への対応も欠かせない。
検討会での活発な議論を期待したい。