【主張】産雇金の新コースに期待
厚生労働省は、これまで在籍型出向による雇用維持を目的としてきた産業雇用安定助成金に、「スキルアップ支援コース(仮称)」を創設する。出向を通じて能力アップを図るといわれれば多様な場面を思い描けるものの、その目的が雇用の安定となると、いささか首を傾げたくもなる。
厚労省の資料で「想定される活用事例」として挙げられているのは、①DXをめざす企業がIT企業への在籍型出向を通じて、従業員のデジタル技術やその活用技術を習得、②自動車関連の工場への在籍型出向を通じて、モノづくりにおける品質管理と工程改善の手法や考え方を習得、の2ケース。両者が魅力的な新スキルと映るかどうかはともかくとして、従来の産雇金が推進してきた在籍型出向とは、その位置付けも、送り出す人材にかける期待も自ずと異なってこよう。
助成の対象は、出向元事業主が負担した賃金の一部となっており、上限額は1人1日当たり8355円で、対象となる期間は1カ月~1年間。中小企業に対する助成率は3分の2なので、活用できる人材の範囲は広い。月22日勤務で単純に計算するなら、月給27万円程度までは3分の1の負担で“武者修行”へ送り出せる。人材流出のリスクがちらつくリスキリングに比べて、より安心できる枠組みかもしれない。
産雇金の第3のコースとして、来年度からは「事業再構築支援コース(仮称)」の開始も予定されている。本紙11月28日号1面によれば、事業が縮小するなかでも雇用維持を図り、新分野展開などの事業再構築に取り組む企業を対象とし、そのために必要なコア人材を雇い入れた際の人件費を支援するという。中小企業280万円、それ以外にも200万円という助成額は、起死回生をめざす企業には心強いだろう。
2つのコースとも気にかかるのは、理想的で、かつ事業の発展に結び付く出向先企業やコア人材が、果たしてうまく確保できるのかどうか。5%の賃上げや労働移動の支援策でもある以上、実効性のあるマッチングの枠組みが整備されることにも期待したい。