【主張】注視したい労災支給処分
一般財団法人が職員に対する労災支給処分の取消しを求めた裁判で、東京高裁が同法人の原告適格を認め、審理を東京地裁に差し戻した(関連記事=労災支給取消し訴訟 特定事業主の原告適格認める 地裁に審理差し戻し 東京高裁)。高裁は、労災保険のメリット制により、労災支給処分に事業主の保険料が左右される点を重視している。
事業主が支給処分を争えることを認めた判決が出たことで、今後同様の訴訟が増える恐れがある。仮に支給処分が取り消された場合には、労働者はすでに受け取っていた給付を返還しなければならなくなるため、事業主に対して原告適格を認めた高裁判決の影響は大きい。
一方、労災支給処分への不服申立てや、保険料認定処分の不服申立て時に労災支給処分の違法性を主張することを事業主に認めてこなかった国は、行政解釈を変更するなどの対応を検討している(関連記事=労災認定 事業主の「不服」表明可能に 保険料引上げ巡り 厚労省、【今週の視点】労災給付支給 「要件満たさず」と主張可能に メリット制保険料で)。
12月13日にまとめた有識者検討会報告書では、保険料認定処分の不服申立てにおいて、事業主が算定基礎となる労災保険給付の支給要件非該当性を主張できるよう、必要な措置を講じることを打ち出している。支給要件に該当しないことが認められた場合は、労働者への労災支給処分を残したうえで、その支給処分を除いて保険料額を再計算する。支給処分自体に対する事業主の不服申立て適格は、引き続き認めないかたちだ。
報告書は、事業主に労災支給処分の不服申立て適格を認めた場合、「被災労働者にとって看過できない重大な不利益が生じる恐れがある」と指摘。行政庁が迅速に業務災害を認定し労災支給を行うといった重要な立法趣旨が達成されない可能性があるうえ、保険給付を受ける労働者の「法的地位」が不安定になり、結果として労災保険法の目的である労働者の福祉も達成できないとしている。
労災支給処分が労働保険料の増大といった経済的不利益につながる以上、事業主に争う機会を与えることは理に適う。一方、労災支給処分自体を取り消せば、被災労働者の生活の糧を奪うことにもなりかねず、労働者への影響は甚大だ。報告書が示した対応は、労働者と事業主双方に配慮した着地点といえよう。