【本棚を探索 書評家・濱口 桂一選集(2022年下半期)】『格差という虚構』『労働法批判』『東西文明比較互鑑 秦・南北朝時代編』ほか
労働新聞で好評連載中の書評欄『本棚を探索』から、2022年の下半期に公開した濱口桂一郎さんご執筆のコラムをまとめてご紹介します。
『格差という虚構』小坂井 敏晶 著
前回(【本棚を探索】第21回『実力も運のうち 能力主義は正義か?』マイケル・サンデル著/濱口 桂一郎)は『実力も運のうち 能力主義は正義か?』を取り上げたが、そのメリトクラシー批判をさらに極限まで突き詰めると本書に行き着く。
『労働法批判』アラン・シュピオ著
『労働新聞』のコラムでありながら、今までわざと労働法関係の本を取り上げてこなかったへそ曲がりの濱口が、ようやく素直に専門書を取り上げるに至ったか、と勘違いするかも知れないが、いやいやそんな生やさしい本ではない。
『東西文明比較互鑑 秦・南北朝時代編』潘岳 著
コロナ禍の収まらぬ現代世界で、プーチンのロシアがウクライナに侵攻し、習近平の中国はウイグルなど少数民族を抑圧し、香港を圧殺し、台湾を恫喝する。そうした帝国主義的行動の背後にある思想や歴史観には、隣国日本の住人として関心を持たざるを得ない。
『自民党の女性認識 「イエ中心主義」の政治指向』安藤 優子 著
安藤優子といえば、テレビ朝日やフジテレビのニュースキャスターとして長年活躍し、その後上智大学大学院に入学して、博士号を取得した。その博士論文が本書である。
『制度はいかに進化するか 技能形成の比較政治経済学』キャスリーン・セーレン 著
著者はいわゆる「資本主義の多様性」学派に属する政治学者だが、本書は技能形成という切り口から英米独日という4カ国の資本主義の違いを浮彫りにするもので、労働研究者にとっても大変興味深い内容だ。
『力と交換様式』柄谷 行人 著
台湾のデジタル発展担当大臣オードリー・タン(唐鳳)が強い影響を受けたという柄谷行人の交換様式論。2010年の『世界史の構造』(岩波現代文庫)で展開されたその理論を、改めて全面展開した本だ。
2022年上半期のまとめは、こちらから。
https://www.rodo.co.jp/column/135730/
選者:JIL-PT 労働政策研究所長 濱口 桂一郎(はまぐち けいいちろう)
83年労働省入省。08年に労働政策研究・研修機構へ移り、17年から現職。