【主張】賃金引上げは社会的責務
経団連の経営労働政策特別委員会報告は、連合が春闘方針で示した基本的な考え方や方向性などに対し、「基本的に一致している」と認めた(=関連記事)。構造的な賃上げを重点分野に掲げる政府も含め、約30年ぶりの物価高への危機感は政労使三者で共有されている。
ただ、連合の掲げる「賃上げ分3%程度、定昇相当分含め5%程度」との要求指標に関しては、とくに受け入れる姿勢を示してはいない。2014年以降の賃上げ結果と比べて大きく乖離している点を指摘したうえ、建設的な交渉をめざす観点から、要求水準自体については慎重な検討が望まれるとした。他方では、「昨年より引き上げること自体について労働運動としては理解できる」などとも述べている。
具体的な賃上げの手段に関しても、労使のスタンスは揃っていない。月例賃金の引上げにこだわってきた連合に対し、経労委報告は多様な選択肢の存在を強調する。月例賃金と並んで諸手当、賞与・一時金も引上げの柱になるとし、さまざまな方法のなかから自社の実情に適した方法を企業労使で見出す――ことに期待しているとした。物価高への対応として、インフレ手当の新設や賞与・一時金への特別加算などについても例示している。
経労委報告の発表翌日には、連合が8ページに及ぶ「見解」を発表した。過去の賃上げ結果との乖離を指摘された点に対し、「これまでの延長線上を超える思い切った経営判断が不可欠」と応じている。多様な選択肢があるとした点については「短期的対応に比重を置いている」と捉え、日本経済の中長期の成長を考える視点を強調した。月例賃金の改善を優先し、社会全体の底上げを進めるべきと訴えている。
物価上昇に見合う賃上げが実現できなければ、個人消費は低迷し、再びデフレに転じる事態も避けられない。経団連の十倉雅和会長も賃上げを「企業の社会的責務」とし、「今年を継続的・構造的な賃金引上げの起点としたい」と語っている。自社の実情に十分配慮しつつも、企業労使は覚悟をもって決断したい。