【助成金の解説】両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)/岡 佳伸
不妊治療の保険適用に併せて
令和4年度より不妊治療も保険適用がされました。今後も治療を受けることを望まれる方が多くなるかと思われますが、不妊治療を経験した方のうち16%(男女計(女性は23%))が、不妊治療と仕事を両立できずに離職しています。両立に困難を感じる理由には、通院回数の多さ、精神面での負担の大きさ、通院と仕事の日程調整の難しさがあると言われています。また、働く人の中には、治療を受けている事を職場に知られたくない方もいます。職場内では、不妊治療についての認識があまり浸透していないこともあります。今後、企業には、不妊治療を受けながら安心して働き続けられる職場環境の整備が求められます。
企業に対する支援策・助成策として下記の施策が行われています。
・不妊治療と仕事との両立がしやすい環境整備に取り組む企業を認定制度「くるみんプラス」「プラチナくるみんプラス」「トライくるみんプラス」
・不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル(事業主向け)の提供
・不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック(本人、職場の上司、同僚向け)の提供
・不妊治療連絡カードの提供
中小企業事業主の方への助成金としては
・働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)
・両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)
が設けられています。今回は両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)を紹介します。
助成金の目的
不妊治療と仕事の両立支援のために設けられた助成金です。不妊治療中の労働者の様々な支援の取組を行い、休暇制度・両立支援制度を活用しやすくしています。支給要件の全てを満たし、最初の労働者が、不妊治療のための休暇制度・両立支援制度を合計5日(回)利用した場合には中小企業事業主に28.5万円(36万円)が支給されます。その受給後、労働者に不妊治療休暇制度を20日以上連続して取得させ、現職等に復帰させ3カ月以上継続勤務させた場合、中小企業事業主に28.5万円(36万円)が支給されます。(一事業主一回限り)
受給のポイント
① 不妊治療休暇制度は労働基準法上の年次有給休暇とは別の取組である必要があります。
② 不妊治療休暇制度は不妊治療に特化した休暇制度のみならず、不妊治療を含む多様な目的で利用できる休暇を含むとされています。
③ 労働基準法上の年次有給休暇の権利が失効した、年次有給休暇を積み立てて不妊治療のために利用できる制度は対象とすることとされています。
④ 上記②、③に当てはまる多目的休暇や利用目的を限定しない休暇、失効年次有給休暇の積立の場合は、不妊治療のために制度を利用したことが確認できない日数は算定しないものであることとされています。
⑤ 短時間勤務制度は1日の所定労働時間を1時間以上短縮する制度であり、下記aおよびbを満たすこととされています。また、不妊治療のために利用したことが確認できない日数は算定しないものであることともされています。
a 制度利用期間の時間当たりの基本給等(職務手当および資格手当等の諸手当、賞与を含む)の基準が制度利用前より下回っていないこと。
b 短時間勤務の利用に当たって、正規雇用労働者であった者が、それ以外の雇用形態に変更されていないこと(本人の希望によるものも含む)。
⑥ 所定外労働の制限制度、時差出勤制度、フレックスタイム制およびテレワーク制度の活用については、不妊治療のために利用したことが確認できない日数は算定しないものであることとされています。
⑦ 令和4年度から支給要件に「不妊治療と仕事との両立の支援に関する方針を示し、労働者に周知させるための措置を講じている中小企業事業主であること」が追加されました。
⓼ 働き方改革推進新支援助成金(労働時間短縮・年休促進コース)との併給も可能です。
様々な制度や仕組みが対象になります。結果として働き方改革に対応した柔軟な休暇制度や勤務時間制度を不妊治療と仕事の両立のために活用した結果が助成対象になります。各都道府県が設けている事業主向けの支援制度との併用も可能です。
相談先
各労働局雇用環境・均等部(室)
支給申請までの流れ
概要、支給額
就業規則規定例
規定例1 不妊治療のための短時間勤務制度の規定例
第○条 不妊治療を受ける社員は、申し出ることにより、就業規則第○条の所定労働時間について、以下のように変更することができる。
所定労働時間を午前9時から午後4時まで(うち休憩時間は、午前 12 時から午後1時までの1時間とする。)の6時間とする。
規定例2 企業独自の休暇の取得事由に不妊治療を含める場合の規定例
(ファミリーサポート休暇)
第○条 会社は社員が次の各号のいずれかの事由により休暇を請求したときは、年20日を限度に休暇(以下「ファミリーサポート休暇」という。)を与える。
① 配偶者の出産(出産当日前後各4週間以内)
② 家族の看護(配偶者及び2親等以内の者。ただし、小学校就学前の子を除く。)
③ 家族の疾病予防又は検診(配偶者及び2親等以内の者。ただし、小学校就学前の子を除く。)
④ 子の学校行事への参加(保育所、幼稚園、小学校、中学校、高等学校及びこれに準ずる学校)
⑤ 不妊治療
2 前項の休暇の合計日数のうち、年間5日は出勤扱い(所定労働時間働いたとの同じ扱い)とする。
規定例3 不妊治療休業の規定例
第○条 不妊治療を受ける全社員は、休業開始日の属する事業年度(毎年4月1日から翌年3月31日まで)を含む引き続く5事業年度の期間において、最長1年間まで休業(以下「不妊治療休業」という。)をすることができる。
2 不妊治療休業を希望する社員は、原則として休業を開始しようとする日の14日前までに、医師の診断書等及び不妊治療休業申出書を会社に提出することにより申し出るものとする。
3 不妊治療休業中の賃金は有給(年次有給休暇と同額の算定方法)とする。
4 医師の見立てより早い妊娠又は治療の中止等の事由により、申し出た期間の終了前に不妊治療を要しなくなったときは、遅滞なく会社に連絡し、復帰日を決めるものとする。
5 賞与の査定及び年次有給休暇の付与要件の算定等において、不妊治療休業制度を利用したことによる不利益は生じない。
筆者:岡 佳伸(特定社会保険労務士 社会保険労務士法人岡佳伸事務所代表)
大手人材派遣会社などで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。
日経新聞、女性セブン等に取材記事掲載及びNHKあさイチ出演(2020年12月21日)、キャリアコンサルタント
【webサイトはこちら】
https://oka-sr.jp