【主張】日本型職務給は職能給?!
日本型の職務給とは、一体どういうものなのか。岸田文雄首相は施政方針演説のなかで、6月までに導入方法を類型化し、モデルを示すと語った(関連記事=職務給導入法モデル提示へ 岸田首相・方針演説)。「職務に応じてスキルが適正に評価され、賃上げに反映される日本型の職務給へ移行すること」が、企業の成長のためにも急務だという。
年頭の記者会見などでは、6月までに「労働移動円滑化のための指針」を取りまとめるという話だった。その意味ではもっぱら中途入社時の賃金決定を問題にしているのかもしれないが、賃上げと結び付けられると違和感は拭えない。ましてや物価上昇並みにマクロレベルの賃金を引き上げるほど労働移動を加速させるというのなら、労使とも心穏やかではいられまい。
一方、単にスキルアップに応じて昇給する――という話であれば、それは職務給ではなく職能給だろう。職務給とは、職務自体を評価して値段を付けるものであり、賃金は「どんな職務を担うか」で決まる。リスキリングで「〇〇ができる」ようになっても、賃金が上がるとは限らない。
むしろ、職務に必要な知識・スキルを棚卸しし、それらを昇給、昇格の基準に据えるのは、職能資格制度がめざした姿だろう。ストレートに個人の能力を評価するのだから、「できることが増える」につれ賃金は上がっていく。今や世間から単なる年功賃金とみなされているのは、適宜行うべき棚卸しをサボり、「歳を重ねたから能力も伸びたはず」と無責任な運用を繰り返したからに他ならない。
元来、職務給を謳ってきた国家公務員給与も、近年は属人的な運用を強めている。たとえば人事院は昨年9月、民間との人材交流の円滑化に向け、採用時の給与決定などについて各府省へ通知した。現行制度で可能な“取扱い”を示し、「採用される方の専門性や業績等を適切に評価し、民間企業等における経験を十分に考慮して給与を決定することが必要」とする。過去の業績や経験まで賃金に反映せよというのは、職能給を年功賃金化させた理屈と同じに映る。日本型の職務給がそうした運用をめざすなら、少なくとも職務給とは言い難い。