【主張】安全設計による効果期待
本紙報道によると、厚生労働省は、建設工事の設計段階における労働災害防止対策に着手するとしている。設計段階の安全衛生対策はこれまで盲点となっていたもので、大きな前進といえる。発注者、設計者、施工者などの関係者が一体となって取り組めば、労災防止は新しい次元に進むことになろう。
昨年12月に成立した建設工事従事者安全・健康確保法では、建設工事現場の安全性を点検・分析するとともに、作業者の安全に配慮した設計を要請している。東京オリンピック・パラリンピックの建設工事にかかわる安全衛生対策の基本方針においても設計段階における安全衛生対策に焦点を当てた。
こうした背景から厚労省は、今年6月から来年3月までを目途に、この分野の先行国であるイギリスやアメリカをヒアリング調査する方針である。何らかの形で安全衛生対策に組み込まれよう。
ヒアリング調査では、両国の設計コンサルタントなどを対象に何がリスクとして認識されているか、リスク情報の伝達方法、設計費や施工費への影響などを明確化する。
屋外が基本となる建設工事では、気候や地形、地質などの自然条件に加え、騒音、振動問題も絡み、各現場で施工方法が異なる場合が多い。各現場の施工条件に合わせた設計段階における安全衛生対策が重要となってくる。
なかでも発注者の姿勢が決め手といえる。安全衛生対策は、発注・設計段階からスタートすることを再確認し、請負契約における安全衛生経費の明確化と工期の適正化、作業の安全性へつなげてもらいたい。また、安全衛生経費の計上においては、国土交通省のガイドラインなどに沿った適切な積算が不可欠である。
平成28年の労働災害による年間死傷者数は12万人近くを数え、前年を上回る結果となった。死傷者数は、安心・安全社会に向けて継続的に減少させる必要があるが、効果的な対策が打たれていない。発注者、設計者、施工者の三者が一体となり安全衛生に配慮した設計が実現できれば、死傷災害の減少を後押しする新たな手立てとなろう。