【人材ビジネス交差点】ビジョン定め健康管理を/㈱OHコンシェルジュ 代表取締役 東川 麻子
我われは産業保健の専門職として企業にサービスを提供しているが、同じ医療職が担当しても、その会社の健康管理のスタイルは1つとして同じ形にならない。私の主観的な判断ではあるが、その良し悪しにはとても大きな差がある。
20年以上この仕事をしてきて、その企業の健康管理を左右するのは、企業の担当者であり、その人、その部署の影響がいかに大きいものかと感じる。たとえばメンタルヘルス対策がうまくいくかどうかは、担当者の理解や取組みが最も大きな要素と考える。
ある企業で、担当者が交代しただけで劇的に状況が改善し、組織における一担当者の影響力に驚かされたことがある。とくに健康管理は全従業員にかかわることであり、会社全体の雰囲気が変わるといっても過言ではない。収支など経営上の数字には表れない「良い会社」「安心できる職場」とはこういうものかと肌で感じることが多い。
「良い会社」の健康管理を、他の会社でも参考にしたいといわれるが、単純に同じことをすれば良いというものではない。形に表せないものであり、私自身、それを表現できないことにもどかしさを感じつつ、この違いは何であるのかとまだ具体的な答えをみつけられていない。
ただ、1つ言えることは、うまくいっている会社とそうではない会社の違いは、目的をどう捉えているかである。健康診断やストレスチェックをはじめとする健康管理は、労働安全衛生法に定められているから実施しているといえば、それまでのことになってしまうが、あくまでこれらは健康的な良い職場をつくる1つの手段であり、目的ではない。良い会社では、どのように健康管理を進めるかだけでなく、どのような会社にしたいか、従業員にどのようになってほしいか、という考えの上に、健康管理業務が組まれている。もちろん、我われ医療職のかかわりも重要だが、その土台となるビジョンがないとうまく進まない。
多くの会社が取り組んでいる健康経営も、認証の取得が目的になっていないだろうか。また、健康管理に年々専門的な内容が増えるなか、専門の産業保健職に任せておけば良いと考えていないだろうか。会社ごとのビジョンがなければ、医療職は力を発揮しづらい。
たとえば病院で治療方針を決める際に、患者がどんな生活を望み、どんな生き方をしたいのかを示してくれれば、医療職が提案を行いやすくなる。会社の健康管理も同様だ。産業保健職と経営者、担当者が会社の将来について語り合うことが、健康管理のカギとなる。
筆者:㈱OHコンシェルジュ 代表取締役 東川 麻子
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