【主張】他人事でない高水準要求
大手企業の労働組合が、続々と総額で1万円を超える賃上げを要求している。“実質賃金ではマイナスになる賃上げ”が懸念されるなか、機運醸成をめざす政府や労働組合側にとって、まずは第一のハードルを無事乗り越えたといえそうだ。
自動車メーカーでは、2年連続でベースアップの有無を明らかにしていなかったトヨタ自動車の労組が、資格ごとの引上げ額(定期昇給分を含まない)として4670~9370円を要求した。日産自動車の労組は総額ベースの平均賃金改定原資として1万2000円を、ホンダの労組は総額1万9000円(うちベア1万2500円)を求めている。自動車総連の金子晃浩会長は記者会見で、「賃金においては、ほぼすべての組合で昨年を大きく上回る水準の要求となっている。加えていえば、二十年来、三十年来で最も高水準の要求をしている組合もあると認識している」と手応えを語った。
基幹労連では、三菱重工、川崎重工、IHIらの総合重工7組合が揃って1万4000円の賃金改善を要求。ベースアップに当たる水準改善額として7000円以上の方針を掲げている電機連合では、日立などの主要単組が7000円を要求した。
1月に公表された2022年平均の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)は、結果的に前年比2.3%の上昇となった。少なくともこれを上回るベアが行われなければ、理論上は定昇分が物価上昇分で相殺される。定昇制度が確立していないケースにあっては、昇給が2.3%に満たない場合、実質賃金ではマイナスになってしまう。
昨年11~12月、商工中金が取引先企業約4000社に実施した調査では、2023年中に全従業員の定例給与を引き上げる(定昇分を除く)とした割合は41.4%に上った。引上げ率についても全体の27.5%が「0%」と答えた一方で、23.5%が「2%」とし、「3%」も19.2%と少なくない。価格転嫁の立ち行かない中小にとっては悩ましいことこの上ないが、賃上げへのスタンスが一様でないことは肝に銘じたい。