【ひのみやぐら】技能伝承のラストチャンス
技能伝承に頭を抱える経営者が少なくない。世代交代が進んで、職場に若い人が増える一方、現場で多くの経験を積んだベテランの数が少なくなってきている。作業現場には、その会社でしか使用されないような道具や作業工程があり、外部講師を招へいしても難しい場合がある。また、職場には独特の雰囲気があり、人間関係も存在する。指導する人は誰でもよいというわけではなく、経営者としては現場に精通するベテランを頼るのが、一番安心感がある。
最初に技能継承の危うさが叫ばれたのが「2007年問題」だった。2007年は団塊世代の筆頭となる1947年生まれの人たちが60歳を迎えて定年退職となるため、大量退職が危惧された。団塊の世代とは、第二次大戦後まもなくの1947~1949年に誕生した人たちのことで、第1次ベビーブームを巻き起こした。
この年齢層の人たちが一気に産業現場から消えることが危惧されたことから2007年問題が表面化したわけだが、結果的には杞憂に終わった。年金受給開始年齢が60歳から65歳に変更されることから、国は企業に対して定年の廃止や定年年齢の引き上げ、定年後の再雇用制度の充実を働きかけた。企業側も60歳定年を65歳に伸ばしたり、再雇用制度で継続雇用し、大量の退職者が出るにはいたらなかった。
大きな混乱はなかったものの、問題の根本が解決したわけではない。ほとんど解消することなく問題は先送りされただけで、現在まで尾を引いた格好になっている。現在、団塊世代の年齢は74~76歳になる。総務省統計局の調査によれば75歳以上の就業率は70~74歳の層に比べて大幅に低下している。現場に団塊世代のベテランが在籍しているならば、今がラストチャンスと考えて良い。
会社としては若手がベテランから吸収できる機会を設けたい。作業上のノウハウや技だけではなく、これまでの職業人生を通じた経験値など学ぶべき点はたくさんある。ノウハウなどはマニュアルやツール、テキストに記録しておくと良いだろう。
現場力の低下を防ぐためにも、今のうちにベテランから金言を引き出しておきたい。