【主張】底抜け防止は地域貢献に
東北3県を対象とする労働協約の地域的拡張適用が決定した(=関連記事)。茨城県全域を対象とする2021年9月の決定事案に続き、UAゼンセンに加盟する家電量販店の2労組が申し立てていたもの。協約の内容は同じく正社員の年間所定休日数についてで、1日の所定労働時間が7時間45分を超える場合、111日以上とすることなどが求められる。
地域的拡張適用の目的は、大部分の労働者に適用される労働協約の内容を“公正労働条件”とみなし、企業間の労働条件切下げ競争を防ぎ、公正競争を確保する点にある。UAゼンセンの開いた会見では申立ての代理人を務めた古川景一弁護士から、「人件費割合の高い業界では、休日か賃金を削って企業間競争をやらざるを得ない」との指摘もあった。実際、過去に他の地域で休日数を引き下げる事例があった点は、中労委の決議に際しても確認されている。
シフト勤務が広く用いられる同業界では、年間休日数のバラツキが大きい。産業計では1人平均が115.3日、1企業平均が107.0日(令和4年就労条件総合調査)であるのに対し、「今でも大型家電量販店のなかには年間休日数が104とか106の企業がある」(古川弁護士)。これらの企業では拡張適用されたルールを守らない限り、茨城や東北3県には出店できないことになる。
UAゼンセンでは、新たな業種、地域、労働条件面での拡大を視野に入れ、引き続き取組みを進める方針だ。一方で先行した茨城県全域のケースでは、当該協約が5月末に期限を迎えるため、“更新”をめざしてすでに同県知事へ申立て済み。今年2月には自治労の組織が福岡県知事に対し、水道検針業務の最低時給などに関する協約を福岡市全域に適用すべく、申立てを行った。32年ぶりだった21年9月の決定以来、取組みは広がりをみせている。
労働条件の“底抜け”を防ぐ地域的拡張適用は、地場企業にも恩恵をもたらし得る点で注目されよう。多様な業界が将来の担い手確保に不安を抱えるなか、条件を切り下げて労働投入量を増やす泥仕合は、ご免蒙りたい。