【主張】経営者の“想い”も傾聴を
データによる明確な根拠に基づく審議決定を――。中小企業3団体(日本商工会議所、全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会)は、今年度の最低賃金に関する要望を明らかにした(=関連記事)。最賃法9条が定める3つの考慮要素のうち、「生計費」と「賃金」には上昇が見込まれる一方、中小の「支払い能力」は厳しい状況にあると強調している。
最賃審議の舞台となる目安に関する小委員会では例年、さまざまな統計データが参照される。ただ、中小の支払い能力をダイレクトに示すデータがあるかと問われれば、疑問符が付く。なかには法人企業統計による「従業員1人当たり付加価値額の推移」なども含まれるとはいえ、最も新しい年度分データは前々年度のもの。コロナ禍真っ只中の労働生産性から、現在の賃上げ余力は窺えない。
3団体による要望では、前年度の審議について「プロセスの適正化が一定程度図られた」と評価している。実際、更新されたデータが繰り返し配布されていた。ただし、本号3面によれば日商は、「物価上昇など生計費の影響に大きく引っ張られ、支払い能力について着実に反映されたとは言い難い」としている。今回、わざわざ支払い能力に「中小企業の~」と冠したのも、価格転嫁が十分に進まず、賃上げ原資が乏しい現実を強く訴える意図があろう。最賃法9条が、正しくは「通常の事業の賃金支払能力」を考慮要素に挙げていることもあるのかもしれない。
物価上昇を背景に醸成された賃上げ機運は、連合の集計が1万円超で推移するなど、高水準の結果をもたらした。一方で中小に関する限り、無理をして賃上げに踏み切った例が少なくないのは、各種のアンケートでも明らか。あるいは小売大手で散見されたパート時給の60~70円アップについても、そこには昨秋の最賃改定への対応分が含まれている。前年度の改定への対応が現在の支払い能力を裏付けるとしたら、無限ループのようなことになってしまう。
経営者が賃上げに込めた想いにも耳を傾け、納得感のある審議決定がなされることを願わずにはいられない。