【主張】災害発生要因の分析急務
厚生労働省は労働安全衛生規則を改正し、労働災害死傷病報告を電子申請で行うよう事業者に義務付ける方針だ(=関連記事)。デジタル技術の活用によって、災害の発生状況・要因の的確な把握を進めるという。
労働災害をめぐっては、死傷者数が直近10年程度において増加傾向にあり、令和4年は過去20年で最多を更新した。電子申請化を通じた災害状況の把握および詳細な分析と、それを踏まえた対策の実施によって、労働災害増加に歯止めがかかることを期待したい。
厚労省がこのほどまとめた令和4年の労災発生状況によると、死亡者数は過去最少を記録する一方、休業4日以上の労災死傷者数が前年に比べて1769人(1.4%)増え、平成14年以降で最多の13万2355人に上った。死傷者数は21年まで長期的に減少傾向にあったが、以降は増加に転じている。
死傷災害は近年、転倒によるものが最も多く、令和4年はさらに増加。前年比1623人(4.8%)増となっており、死傷災害の件数を押し上げた。
転倒災害の発生率は、高年齢者ほど高い傾向にあり、とりわけ女性で顕著だ。転倒災害の年千人率は、20代女性で0.15なのに対し、60代以上の女性は2.35に達する。
少子高齢化の進展などにより、働く高齢者や女性が増えることが引き続き見込まれることから、災害分析を踏まえた効果的な対策を講じない限り、今後も労災増加に歯止めをかけるのは難しい。
企業が効果的な対策を講じられるようにするためには、災害発生状況や要因の詳細な分析と、その周知が重要だ。要因分析に役立てるため、厚労省は令和7年1月の電子申請義務化と併せ、報告の様式も変更する。災害が発生したときの①場所、②作業、③対象物や環境、④不安全・有害な状況、⑤災害の内容――の各項目を確実に入力させる様式とする。
改正安衛則では、経過措置として電子申請が困難な場合に紙による報告を認めるが、詳細な災害分析が迅速に行われるよう、施行後の早い段階での電子申請の普及を望む。